就活のマニュアルを見ると、最初に出てくるのが自己分析です。けれども、この自己分析の作業は中小企業の就活ではほとんど必要ありません。理由は二つあります。
語弊を恐れずに言うと、理由の一つ目は、自分による自己分析は当てにならないと言うことです。例えば、既存のお取引先様を頻繁に決まったルートで訪問すると言うルート営業と言う仕事があります。非常に募集人員の多いニーズの高い職種です。この仕事に似たような作業をアルバイト経験などでしたことがあって、それに適性があると言う自己分析結果にたどり着く学生はどれぐらいいるでしょうか。そして、それは相手側の会社から見ても有効な分析結果になるでしょうか。
仕事の内容は同じ職種に分類されていても、その企業によって多種多様で、それに合致する適性はその企業でも分かっていないことがたくさんあります。大学二、三年生までの20年ほどの間に経験することは限られており、その中から、無限に近いぐらいに存在する色々な仕事への適性を抽出し、自分の進路を絞り込もうとするのはほとんど無意味と言っても良いでしょう。
もう一つの理由は、中小企業が新卒社員に何を求めているかということによります。中小企業では経営者も新卒社員に対して、特定の能力や適性を期待するのではなく、規模が小さいが故に、大手企業以上に簡単に起きてしまう経営環境の変化に柔軟に対応できるような能力をそのつど身につけて成長できる資質の方を重視しています。逆に言うと、これから色々な経営環境の変化(それは新規事業の開始かもしれませんし、既存の事業の大きな見直しかもしれません)に対応するために、中途採用者を雇わず、新卒社員を雇おうとしているのです。中途採用者は職務経歴書でその人の過去を評価して採用します。それに対して、新卒社員はこれからの可能性を評価して採用するのです。
ですので、その人物が仕事に対してどのように向き合おうとしているかについては、中小企業は高い関心を持っていますが、職業適性や過去の経験にはほとんどこだわっていないケースが多いのです。
職業適性を考えたり、進むべき業種を絞り込むための自己分析は、このような理由でほとんど意味を持たないものと思いますが、まるで儀式のように面接時に定番で求められる「自己PR」のネタを幾つか見つけるための自己分析ぐらいに考えるのがよいでしょう。
※中小企業の面接では「自己PR」は事実上、学生を面接の場に慣れてもらうようにするためのプロセスとして認識されています。その内容で面接結果が大きく左右されることはほとんどありません。