ここまで、中小企業への就活のあり方を考えてきました。一般的な就活マニュアルにある、就活対策のうち、自己分析はかなり怪しい結果しか出ませんし、中小企業相手に外部からの会社研究はあまり意味を成しません。さらに業界研究は大手企業対象の就活用業界研究本では、あまり役に立つ内容が含まれて居ません。

さらに、グループ・ディスカッションの練習をしたり、自己PRをやたらに練って作っても、いい結果につながらないことがお分かりいただけたと思います。中小企業は、ネーム・バリューも大手ほどではない自社に関心を持ってくれた学生がどのような人物かに、非常に関心を持ちます。大手企業に比べて福利厚生や施設なども充実しているとはいえない中で、熱意を持って既存の社員と力をあわせて働いてくれるのか否かと言うことが、最大の関心事です。

学生側から見ると、そのような中小企業の関心事項を満たすような面接ができれば、大手企業に比べて極めて採用される確率が高いということがいえます。採用意欲や採用ニーズのある中小企業を見つけたとして、問題なのは、探した中小企業に接触を持つと、一つ確実に尋ねられる質問です。それは、「なぜ弊社に就職したいと思ったのか」です。中小企業就活の落とし穴(2)で述べた通り、その企業の状況を外部から詳しく知っておくことは、(親類や知人が居て話を聞けたのでしたら別ですが)ほぼ不可能です。企業の採用担当者側もそのことをよく知っています。その際に、「詳しい業界研究をして非常に関心を持ったから、この業界での仕事を得たくて応募した」と答えるのは非常に説得力があります。

ここまでの流れでお分かりの通り、無数に存在する中小企業を広く全般にアプローチするのではなく、特定の分野、つまり、特定業界の中小企業を選び出す上でも、その中小企業群に対して知識の面で有利に就活を展開する上でも、具体的な業界研究を行なうことが効果的なのです。

また、学生のレベルで業界団体を訪問したり、一定期間業界紙・業界誌を購読したりするなどして、業界独自の状況を理解しておくことは、中小企業側にとって非常に評価される努力になることでしょう。

具体的にこんな例があります。ある中堅の広告代理店が新卒採用をしたときのことです。有名大学の学生も居ましたが、明らかに滑り止めに面接に来た様子がありありと分かり、採用側には魅力が感じられませんでした。一方で他の学生は、如何にもといった感じの自己PRを機械的に述べたり、使い慣れていないことが明らかなぎこちない敬語で卒論のテーマを説明していたりして、到底、採用しても当分クライアント担当者の前には出せそうにありませんでした。

その中で、たった一人、社長が、「是非採用しよう」とその場で決めた学生が居ます。その学生は、コミュニケーション能力もそれほど高くなく、有名大学の出身でもありません。中小企業に総じて評価されやすい体育会系のようなノリもありませんでした。その学生の面接は、前半、あまりにも普通どおりでした。しかし、後半、何か自分で学生時代に取り組んだことはあるかの問いに対して、突如、鞄からスクラップ・ブックを出して見せたのでした。それは業界誌の記事のクリッピングでした。そして、彼は、「広告業界でどうしても働いてみたくて、業界研究をじっくりしようと思い立ち、半年間、業界誌を購読して気になった記事をクリッピングしました。この中の記事について、何を尋ねられても、自分の考えを説明する自信があります」と言ったのでした。

スタンド・プレーのように感じられるでしょうか。しかし、この話を中小企業経営者にしてみると、ほぼ全員が、「そんな学生が現れたら、仮に他の評価項目が平均的ぐらいなレベルでも、即決採用するに決まっているでしょう」と答えたのです。大学のブランドにも、コミュニケーション能力にも、抽象的でつかみ所のない課題解決能力にも圧倒的に優る、中小企業経営者へのアピール・ポイントが、実は真面目な業界研究の積み重ねにあることが分かります。