一部の職業に結び付いた研究分野を持つ理系学生以外の四年制大学卒業者にとって、多くの場合、中小企業はジェネラリストと呼ばれるキャリア・パターンを追求する場所となるものと思います。

ジェネラリストとは、色々な仕事を浅く広く知っていて、そのどれにも対応できるようなキャリアのパターンのことです。浅く知っていると言うと、何か中途半端で使い物にならないように感じますが、大手企業でもジェネラリストしか基本的に経営層まで上り詰めることはありません。組織経営を行なっていくためには、会社全体の動きや働きを理解している必要があるからです。ジェネラリストは通常、ライン部門と呼ばれる直接収益を生む部門で働くことが殆どです。ライン部門の部署を具体的に言うと、主に製造部門、販売部門(店舗など)、そして営業部門と言うことになります。企業によってはこれに物流部門や製品開発部門、そして販売後の商品に対するサービス部門なども含まれることがあります。ジェネラリストは、その企業の経営方針や価値観を日々の仕事の中で表現する人々でもあります。

これに対して、対照的なパターンがあります。スペシャリストと呼ばれる、専門特化したスキルで社内で働くキャリア・パターンです。特定の社内の仕事の分野を深く知っていることで企業組織に貢献する人々です。企業で言うと、人事や総務、経理、財務などの部署で働く人々が、そこで身につけたスキルや経験を深めていくと、スペシャリストと言うことになります。深いスキルが必要という意味では、例えば、プログラマーや医師などは、組織のライン部門で働いていますが、ここで言うスペシャリストの多くはライン部門以外のスタッフ部門で働いています。たとえば、経理の仕事は、どのような業種の会社でも極端に大きな違いはありません。逆に言えば、経理の仕事を極めれば、どのような業種の会社でも勤められることになります。しかし、どの会社でも共通のことばかりを手掛けるがゆえに、その会社らしさが出る部分の仕事を手掛けることはあまりありません。

一万人ぐらいの企業組織では、スタッフ部門で働く人々が三割近く存在します。一方で総社員数5人の企業組織の場合なら、多分、経理の作業を他の作業と兼任して社員が行なう程度だと思いますので、0.5人と言ったところだと思います。全体の10分の一です。組織が小さくなると、スタッフ部門の社員は絶対数が減るだけではなく、全体に対する構成比も下がります。つまり、中小企業の場合、スタッフ部門で経験を積もうとしても、ポジションが少ないので、難しいことが分かります。ポジションが少ないと言うことは、なかなか昇進しないと言うことでもあります。

中小企業でのジェネラリストは、部署が明確に分かれていない状態に置かれていることが多いので、その企業組織で要求されるスキルや経験は何でも身につけていくことが必要になります。その意味では、大手企業よりも早い段階で、企業組織に必要な知見やスキルが広範に学べることになります。また、仕事を通して得られる人脈も当然広くなります。そして、かなり早い段階から大手企業での課長職ぐらいの判断が仕事上要求されるようになるのです。