或る日の店長との会話

「市川さん、ウチの本部がコミュニティー重視の路線を打ち出したのを知ってますよね」
「ああ、はい。先月こちらにお邪魔した時に店長が仰ってましたね」
「それなんですけど、ミーティングで『地域の人をもっとよく知りましょう』っていうような話を何度もしても、結局、お客さんと話を以前よりよくするだけになっただけなんです」
「ああ。それはいいことじゃないですか。」
「いや。地域を知ることが問題なんですよ」
「はあ。地域って何を知れば知ったことになるんですか」
「地域にかかわること全部ですよ。ていうか、お客さんからの評価が接客のすべてなんですから、お客さんから見て、スタッフが地域のことをよく知っているなと思われるようにしなきゃダメなんですけど、もう副主任の段階でダメなんですよ。そういうことは」
「じゃあ、副主任向けのそういう研修を考えましょうか」

実際に店舗の現場で発生しているシーン

毎月訪問しているこの店舗は住宅地が広がる地域の私鉄の駅前商店街にあります。店内のスタッフは地域の競合他店に比べて親しみがある接客ができています。そこで、早番、遅番各々の中心となる時間帯でお客様との会話量が多いスタッフ二名にボイスレコーダーをつけてもらい、お客様との会話を録音してもらいました。

スタッフ合計4名を事務所のモニターで見ていると、比較的長く会話をするのは、早番はもちろん、遅番でも比較的早い時間帯は主婦層が中心でした。

一人20分ほどの録音を再生して聞いてみると、会話は好感が持てる内容でした。しかし、「お客様から見て、地域を知っているような印象を与えること」というレベルには達していないことも明らかでした。主婦のお客様との話題は、録音された範囲では、買い物のことが多く、スタッフはそのような話題に、「へえ、そうだったんですか」、とにこやかに対応していますが、敢えて言うとそれだけです。噛み合う会話という域には達していませんでした。

さらに録音中に事務所に戻ってきたスタッフが電話を受けて、新規のお客様にご来店の道案内をする場面が入っていましたが、それも的を射ず、電話越しのお客様がややいらだっているのが分かりました。

個別カスタマイズ研修の企画と実践 第一弾

店長が指名した早番と遅番の副主任、Dさん、E君のお二人に、今回の録音結果についての私の見解を一度説明してみました。二人とも「なるほど。まずいですね」と反応しましたが、どうすべきかよくわからない感じでした。そこで、まずはお二人に現状改善に取り組んでもらうことにしました。

具体的には、近隣スーパーのチラシの目玉商品と駅前デパートの催事を毎日丸暗記してもらうことにしたのです。真剣に取り組んでもらうため、丸暗記内容のテストも毎日行なうことにしました。単に、目玉商品の名前や催事のタイトルを覚えるだけではなく、短い文章で簡単に特徴や付帯情報を説明できるようにしてもらいました。5日目ぐらいからは、店長の許可を得て、暗記内容を実際のスーパーに赴いて現地で確認してくるようにしました。

個別カスタマイズ研修の企画と実践 第二弾

続いて、DさんとE君に、まず近隣の町名と交差点と主な目印となる店舗などを地図で覚えてもらいました。これも一人ずつ、ホワイトボードに手書きで地図を書いてもらって説明してもらうテストを何度かしました。その後、徒歩の場合、車の場合の二パターンに分けて、主要な交差点や建物からの案内文を作ってもらいました。その案内文の内容を完成させるため、チェーン店他店の店長や主任を動員して、自店の近隣から電話してもらい、きちんと店舗に道案内できるか否かをテストしました。

協力してくれている店長や主任の立っている向きが想定と違ったり、夜になって看板が見えなくなったりするなど、イレギュラーにも対応できるようになるまで、文章の改善と案内練習を重ねてもらいました。

カスタマイズ研修後の様子

翌月に、訪問してみると、迎えてくれた店長が、「DとEができるだけじゃ、店舗で取り組んでいることにならないので、二人が今度はスタッフに教えることにして、ミーティングの時間を毎日ちょっとずつ延長して、繰り返しやるようになったんですよ」と笑って説明してくれました。

DさんとE君に話を聞いていみると、「道案内の方は、意外にその場面が少なかったので、まだ、はまった感じがすることが少ないです。ただ、目玉商品や催事は、主婦のお客様にも改善効果にじわじわと気づいてもらえるようになった」との反応でした。スタッフに尋ねると、二人の副主任の時以上に面白がってやっているように感じられました。ふと壁を見ると、「暗記」と書き込まれたスーパーのチラシが貼ってありました。