既存顧客のニーズの発見

弊社がお引き合いを戴く「差別化」に関わる案件は、経営者などからの「ウチも差別化をしたい」と言うご要望によるものです。「既に差別化が大分できており、どのようなお客様のどんなニーズに対応すべきかは決まっているが、対策が今ひとつ…」のような「進んだケース」は皆無です。

そのような場合、ご依頼企業の方々が仄かに感じるような、既存の差別化要因(到底コア・コンピタンスと呼べるようなものが存在しないことが普通ですが…)を強めることにいきなり着手はしません。それは、

● その差別化要因の強化が本当に顧客の満足につながることが確信できないのと
● 他社も追随しやすいようなコア・コンピタンスより、
他社から模倣されにくいペリファラル・コンピタンスの確立を優先するからです。

具体的な対策としては、

①顧客の住所データや属性関連データから、取り敢えず、既存客の属性の分布を検討します。
先述のように、属性分類は顧客像は特定できても、ニーズを教えてはくれません。しかしながら、最初の手がかりはここに求めざるを得ません。

②売れている商品群やサービスの特徴などから、取り敢えず、同業種間での競合状態を見ます。
これも先述の通り、同業種間の競合にのみ目を奪われるべきではないのですが、取り敢えず、既存客がどのような期待で来店するのか、どのような取引を望んでいるのかは、ニーズの想定に重要ではあります。

③上述作業と並行して、社員間で顧客ニーズの想定の訓練を進行します。
店舗であれば、「もし、自店が閉まっていたら、顧客はどこに流れるか」や、「来店前の二時間はどのような生活をしていたか。逆に来店後はどこに行って何をするつもりか」などを想像する訓練を重ねます。営業の局面でも、原理は一緒です。
無論、このような疑問に、答えは出るものではありません。数人のお客様にヒアリングをしたところで、それがほかのお客様にも適用できる保証はどこにもないからです。むしろ、顧客を観察し、購買行動などに敏感になるための思考実験の位置づけで行ないます。

④そして、既存顧客の来店(・取引)動機となっているニーズを実際に想定をしてみます。
これは、「どのようなお客様が、何のために自店に来るのか」や、「どのようなお客様が、他では得られない何を実現したいから継続して取引してくれるのか」を(、慎重に検証してみるものの)、勝手に想像して決め付けることを指します。このプロセスには、当然ですが、かなりリスクが伴いますので、中小零細企業ですと、経営者クラスが最終的には関与することが望ましいと考えます。

この際には、「他で得られない」の部分の検証に、同業界だけではなく、顧客の目線で、同様なニーズを満たす可能性のある他の商品・サービスも視野に入れます。例えば、温泉旅館の顧客ニーズの分析とそれへの対応策を考える際に、周囲の温泉旅館との比較を考えるのではなく、都会の旅行代理店で実際に顧客が見るチラシ群の内容検討から始めるようなイメージです。無論、そのようなカネの掛かるチラシを対抗して作らねばならないと言うことではなく、そのようなチラシを見た顧客でさえ、自社に魅力を感じるような対策を打つ具体的な戦術を作るためのことです。

⑤上述の既存顧客のニーズについての仮説に基づき、その対応の充実を小規模に実現します。
仮説は誤っている、または、精度が低い可能性があるので、前項のプロセスで得られた仮説に基づき、いきなり、色々と投資をして差別化を追及するのではなく、色々小規模な対応を進めながら、仮説を検証し、その精度を上げてゆきます。そして、確信が得られるごとに、投資の規模を拡大してゆきます。

前項同様に、この段階の対応策の企画も、業界の中に範を求めるのではなく、顧客の中にある認識にあわせることから始めます。例えば、OLを派遣する零細派遣会社の登録者募集のリーフレット作成の際には、その文字表現の精度を細部に渡って上げるため、そのターゲットとなる女性層(実はこの際、モデリングによって架空の人物を想定していましたが)が読むような雑誌を集め、人気の商品のコピーに登場する形容詞や動詞を収集しました。リーフレットの文章は、或る意味、昔の誘拐犯の脅迫状に出てくるような、切抜きの集合体で構成されていることになります。

緩やかな差別化の実現と顧客接点

高齢者に人気の機種の構成比が高く、既存顧客に占める高齢者の比率が高めというパチンコ店を見学させていただいたことがあります。そこでは、従業員の提案で、年金支給日にイベントを行なうことまでして、高齢者の時間消費ニーズに対応しようとしていました。

射幸性に対する規制が総じてきつくなっていく中、パチンコ店の来店客は、いわば「店舗の居住性」に心地よさを見出す割合が増えていると言います。無論、「出る!」ことも重要でしょうが、店としても、「出る!」ばかりでは大赤字になってしまいます。ですので、心地よい時間つぶしの娯楽という、原点回帰とも言うべきパチンコ業界の動きは目立ちつつあります。それは「出玉」と言うコア・コンピタンスへの依存から、「心地よさの演出」と言うペリファラル・コンピタンスへの依存への緩やかな移行と見ることもできるかと思います。

弊社代表が行ってみると確かに、老人は多く、目的の台で遊技をしています。弊社代表はパチンコは全くの素人ですので、出ているか否かはよく分かりません。周辺に目をやり、缶飲料の自販機を見ると、炭酸系の飲み物が多く、高齢者の喜ぶ店には見えません。高齢者は自転車で来店が多いとのことでしたが、自転車置き場は雑然としていて、来店客が隙間に自転車を押し込んでいる有様です。景品も高齢者が嬉しいものが多いようには見えません。DVDの主力ラインナップは、最近流行のジャパニーズホラーでした。店内で玉と交換してもらえる軽食もパンが多く、ご飯ものは殆どありません。階段も段差は激しく、会員登録の記入台に老眼鏡はありませんでした。POPの字にも細かいものが結構あります。

無論、今挙げたようなことは、高齢者に対する弊社代表の偏見丸出しで、事実認識として間違っているかもしれません。ただ、このような些細なことから検証と対策を重ね、顧客満足は実現して行くものであることでしょう。また、パチンコ店の床面積は広く、高齢者の時間消費ニーズのみに対応するのには無理があると言うことであっても、店内のエリアごとや、曜日ごと、時間帯ごとに何らかの分割をして、その中での顧客ニーズ対応の実現をすることも、色々な制約は出るものの一応可能でしょう。

このような小さな差別化の累積は、間違いなくペリファラル・コンピタンスであり、競合他社からも気付かれにくいことでしょう。完璧に模倣し、これを凌駕することは容易ではありません。 ペリファラル・コンピタンスの累積によって、差別化を実現した後、そこに、強力なコア・コンピタンスを導入しても、他社が単にそのコア・コンピタンスの導入に追随するだけでは凌駕できない強みが形成されていることになります。

振り返って考えてみると、弊社の強調する顧客接点そのものが、これらのペリファラル・コンピタンスの実現ポイントになっていることが分かります。つまり、顧客接点上での顧客目線での特定ニーズ対応を累積することが、結果的に 強力な模倣されにくい差別化を実現すると言うことになります。

顧客接点を超えた全社規模の差別化

私が学んだマーケティングの教科書によれば、マーケティングは会社全体で行なうもので、営業部門や限定されたライン部門だけが行なうものではありません。顧客の支払い形態によって、現金の留保の仕方は変わり、当然、経理作業も適応を要求されることでしょう。社員の採用に際しても、顧客ニーズに応じるための適性の変化や、事業拡大などの要因により、採用手法にも見直しが掛かることは良くあることとだと思われます。

全社の活動をマーケティングで貫くべきであるのなら、全社の活動を顧客目線で照らし、全社の活動を顧客の特定ニーズの充足に向けて収斂させるべきでしょう。つまり、具体的な特定ニーズに対する特化した対応が、会社の存在意義であると、 経営方針にでも事業計画にでも謳えることを指します。

先のパチンコ店の例を振り返り、仮に高齢者の時間消費ニーズを充足することを社是とするなら、新卒者の採用にも、オジイチャン子・オバアチャン子の採用に邁進し、景品業者の選定にもシルバー系の商品需要に詳しいことを第一条件に掲げ、人材育成を請け負う研修会社にも、その手の内容を盛り込んだ研修をカスタマイズで実現させることとなるでしょう。仮に新規事業を始めるのであっても、多分、これらの前提を織り込んで成立する事業、つまり、シナジーのある事業の確立を目指すことになるでしょう。

これらの差別化ポイントは、一応、ペリファラル・コンピタンスと言えることと思います。外からは見えにくく、ジワリと効果を出すものだからです。しかし、これらが重なったときに、他社の追随を許さない強力な差別化が実現するのは間違いないものと思われます。 人材育成も資金繰りも「すべて差別化することができる」、または、「差別化のツールとなる」と言うのは、考えれば当り前ですが、なかなか実行に移すことができません。他社がなかなか実行に移せないからの差別化なのですから、弊社では、常にそのようなラジカルな差別化の緩やかな実現を企画させていただくこととしております。

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