社員の手による事務業務改善は、勉強会の新たな分野のテーマ

一般論で、事務業務は、それがライン部門内のものであっても(スタッフ部門内なら尚更ですが)、作業コストの改善と言うことが、あまり叫ばれません。通常は、事務部門の人数削減などの極端なコストカットが、いきなり実施されるケースが多いものと考えられます。あとはシステム導入時などの業務フローの見直しなどが結果的な改善となっている場合もあるでしょう。いずれにせよ、当事者中心の改善活動は、他の部門部署に比べて少ないように見えます。

しかし、事務業務は事実上、巨大な人件費の塊である一方、単に担当者の非正社員化や闇雲な人数減などの手法、加えて「上」や「外」からの業務フロー改善だけでは、一定レベルの作業改善(コスト・パフォーマンスの向上)の実現以降は、作業品質の劣化や担当者の動機付け低下などの問題が発生してしまいます。

さらに、一般論ですが、事務担当者は各種の研修制度の対象となっていない場合が多く、入社以来、半分放置・放任状態で、申し訳程度のOJTが実施された程度の社員が、中堅規模の会社でもかなり存在します。つまり、PDCAだの、「仮説と検証」だのと言っても、経営的な考え方自体に明るくない社員を対象にして、改善の成果を生むような育成は非常に困難であるとも言えます。

弊社の勉強会の対象は、製造や営業など、所謂ライン部門、プロフィット・センターの社員となっていることが殆どですが、最近、この見えにくいコストの塊である、事務部門のコスト改善がテーマとなる勉強会の受注が増加してきました。ここでは、金融業界における一般職女子社員による事務業務改善を促す勉強会を、実際のケースに基づき、大まかに原理を紹介致します。

金融系中堅企業における事務業務改善の通常

金融業はライン部門自体が巨大な事務部門です。一般に派遣社員や契約社員など非正社員の活用は限界まで進み、各部署に二桁の非正社員が実務に当り、それに対して、数人から10人程度の一般職の女子社員が実作業にも入りながら管理監督するような体制が作られていることが多いようです。役職で言うとこの辺までが主任や係長クラスで、部門マネージャーは主に男性で一人から二人程度と言う組合わせと考えられます。

事務改善は、そのコスト構造から常に至上命題ですが、如何せん、評価や待遇面で厚遇を受けているとは言えない一般職社員と多数の非正社員によって運営されているオペレーションの改善は、「上」からのマニュアル変更のような形でしか推進できません。「カイゼン」はスローガンとしては叫ばれるものの、具体的な結果を出すことは困難で、表面的な組織構成の効率化やシステム導入、さらに作業マニュアルの検証などはやりつくされて尚、現場には細かな改善のタネが無数に散在している状況になっています。

部門マネージャーは、さらにその「上」から提示された人時生産性などの指標などで、業務改善を現場に要求しますが、先のような処方箋を出しつくした後は、ただただ、日常の連絡を通して、「改善を進めよ」としか言えない状況になっています。これ以上のコスト改善を行なうには、まず非正社員を束ねる各部署数人の正社員の「改善力」を高めるしか方法がありません。

しかし、現場を取りまとめるのは、一般職として入社10年近くを経た女子事務職ですが、具体的に改善をどのように進めるべきかを学んだことも経験したこともありません。結果的に、部門マネージャーの「改善」指示は、ただの掛け声に終わり易くなってしまいます。

一般社員の手による事務業務改善の困難

まさに 上述のような現場の声を受け、或る金融関係の会社の教育部門は、研修会社によるパッケージ化された2~3日間程度の「改善研修」を女子社員に受講させますが、どうも結果に結びつきません。多少、重複感はありますが、それはおおよそ、以下のような理由によるものと弊社は考えています。

★ 単なる改善のテクニックを習っても意志が伴わなければ、改善は実現しない。
QCなどの手法を教える研修をこの会社では期待して、そのような研修を実施した訳ですが、改善は日常の作業に変化をもたらすもので、通常、「抵抗勢力」が立ち塞がりますし、結果がすぐに出ないと、行動を起こした者も動機を失っていきます。つまり、テクニックだけでは、改善の動きを持続しにくい。

★ 習った改善テクニックの翻訳は、受講者達にとって、荷が重い。
改善テクニックは通常、生産現場などを想定して体系化されていて、事務部門などでの実施の際には、そのテクニックを自分の部門の作業に翻訳する必要が出てきます。仮に事務部門にかなりカスタマイズされた研修内容であっても、事務部門では通常、自社内で作業の呼称でさえ部門間で統一されていないなど、翻訳作業はどうしても残ります。受講者達だけが、個々に翻訳作業に挑むと、「この場合はどうするのか」と言った疑問が湧き、改善作業の効率が悪くなると共に、精度も落ちてゆきます。

★ 事務部門の生産性は、計測が困難。
事務部門の部門単位の生産性は、計測が比較的容易ですが、グループ単位や個人単位の生産性をトータルで見るのは非常に困難です。製造現場の原価の把握や営業活動の利益性の測定ほどに、事務部門の生産性を高頻度・高精度で管理する体制が整っているケースは少ないものと考えます。つまり、作業改善の結果も見えにくく、数字上の改善ができる手法も、その作業前後の関係者の作業都合やリスク回避のための冗長性を犠牲にしているケースも、まま存在します。

★ 異動前提のマネージャーと短期契約の非正社員の存在が改善を妨げることがある。
その部門に数年以上の単位で在籍し、作業フローを熟知している女子一般職社員が研修の対象であり、改善作業の主体者となります。無論、ケースバイケースですが、それに対して、部門マネージャーは、2年程度で異動することなども多く、作業フローには暗く、どこをどう改善するべきか分からないままに、数字のみで管理を行なっているケースがあります。つまり、具体的な改善活動の推進に無関心になることも多いと言うことです。また、実際の作業を行なっている多数の非正社員もグループ化し、新たなことをして失敗するよりも、マニュアル遵守が優先の保守化の傾向があることが多く、変化を起こすことが必然の改善には非協力的であることが考えられます。

★ 2~3日程度の集中研修では改善活動を徹底できない。
ダイエットや日記付けなど、良いと分かっていても、何度心に誓っても、継続できないことというのは、誰しも経験のあることと思います。集中研修では、改善手法(所謂「QCの七つ道具」など)の実技の研修もあることでしょうが、原因分析から遥か先の対策の実施までを一気に習ってしまいます。当然、実際に何が起こるかを想像して、改善の全工程が実現できるよう、漏れなく的確な質問をし、ステップを完全に理解することは殆ど不可能に近いことでしょう。まして、研修慣れしていない社員が受講者であれば尚更です。

勉強会型の長期研修による事務改善の推進

上述のような事務業務改善の困難さの認識の下、弊社では勉強会型の研修で改善活動の推進を図りました。各部門から1名ずつ選出された在職10年程度の一般職女子社員を対象とした研修の実際の特徴は以下の通りです。

① 集中研修ではなく、全8回、1回1時間半のカリキュラムとして、隔週の実施とした。
集中研修と異なり、項目立てごとに確実に理解し、考え方や技術を身につけてもらうようにした。コストの方も、各回の時間が短いため、全部で3日間丸まるの研修と同程度とした。

② 各回の研修では、現場での作業を必要とする宿題を課した。
宿題は次回までの研修内容の備忘の意義もありますが、それ以上に改善の理解者を、その部門に増やしてい行くことが狙いです。よって、宿題はその回の研修の内容を、部門内の第三者に話して、そのレスポンスをまとめるような形になっています。この結果の発表を行なって戴くことにより、部門での改善の実行上の障害が何であるのかが把握できるというメリットもあります。
また、そのような宿題の実施を支援するために、受講者に議事録も作成して戴き、部門内でのコミュニケーションのツールとして貰いました。

③ 研修内でディスカッションや発表の場を相当量実現した。
単なる理論やテクニック論に詳しくなるだけではなく、その理解を確認するために、ディスカッションや発表の場を、ほぼ毎回用意しました。事務作業を行なう一般職社員は通常、自分の考えを説明する場面に慣れていないことが多く、このような場の用意だけでも、面白さを感じてくださるケースが散見されます。また、部門での改善実施に必須なコミュニケーションの練習にもなります。

④ 前半4回を改善の意義理解の徹底に費やした。
一般的な改善の研修は所謂「QCの七つ道具」のようなテクニックをマスターすることに時間を費やします。しかし、意義の深い理解なくして、改善の意志は生まれず、当然、改善の推進徹底は困難になります。

ですので、8回のうち、前半4回を、
● 「企業の永続性と環境適応。その手段としての改善」、
● 「どのような職場でも求められるスキル。改善ポイントを見つける眼と改善を貫徹する技術」、
● 「人件費削減でも首切りを回避できる改善の実行」、
● 「日常の作業コストを計算してみる」
などのテーマで、改善の意義の徹底を行ないました。

⑤ 各回終了後、研修部門担当者と打ち合わせを行ない、資料の難易度や時間配分などを確認した。
先方にとっては未知の研修形式であったこともあり、受講者の反応などを見つつ、研修部門担当者の方と意見交換を毎回行い、研修企画の調整を随時行なっていきました。テーマの追加や実施順の変更なども柔軟に行いました。

その結果、改善実施の最終的な障害は、
▲ 既に改善はやりきった感が部門にあり、受講者もそれに染まっていること…
▲ 改善実施の最大の障害は、実動部隊である非正社員に対するリーダーシップの欠落であること…
▲ 受講者達も、定型業務の処理者でもあり、改善作業や改善企画立案の時間確保が困難であること…

が判明しました。そこで、当初予定に4回を追加し、一般的な改善研修の枠を超えて、研修内容を盛り込みました。

●製造業などのシビアなコスト改善の実例を紹介し、
その後、事務部門での改善事例を多数紹介する回を設けた。

●リーダーシップの短期間での養成は困難なので、非正社員グループに対する指示出しの場面に着目し、
「質問により商談を成功させる営業テクニック」(有名なSPINなどの手法の応用)である弊社VASSを、
受講者に習得させ、「購買に顧客を誘導する」のと同様に、「現場力向上へ実動者を誘導する」こととし、
非正社員への動機付け向上と有効性の高い指示出しを可能とした。

※弊社の営業トーク改善策のVASSに関しては、こちらをご覧下さい。

● タイムマネジメントの基礎的な知識を紹介し、
受講者達自身の「緊急の仕事」や「ルーチン・ワーク」の量の逓減を促しました。