社内勉強会の初期段階: 「共通言語作り」
社内勉強会を開始すると、参加者の経営についての考え方がバラバラであるだけではなく、参加者の用いる言葉の定義も全く異なり、議論が全く噛み合わないことが頻発し、効率的な課題解決を進めるなど夢のまた夢のような状況が発生しがちです。特に中小零細企業においては、社員の殆どが中途採用であることも多く、その場合、前職の職場での言葉の用い方がそのまま引きずられたままになっていますので、このようなことは寧ろ当り前に発生します。
例えば、社長が幹部・社員に向かって、「ウチは弱小企業だから、強みを活かして何事にも当たるように心掛けなくてはならない」などと言っても、自社の強みはどのようなものか全く共通認識は為されいない状態では、社長の方針も全くバラバラに解釈されることになります。この「強み」に並んで、「差別化」や「付加価値」、「お客様満足」、「カイゼン」や「改善」、「効率化」、「社内コミュニケーション」、「経営理念」など、曖昧なままに使われ続けている言葉は多々見つかるのが普通です。
そこで、弊社では多くの企業での社内勉強会企画運営実績から、社内勉強会のフェーズ分けをお勧めすることがあります。最低でも2フェーズに分け、フェーズ1は、「共通言語作り」と称して、参加者間で、フェーズ2での具体的な課題解決に必要な分野の知識やスキルを、事前に共有しながら学んでいただく段階を指しています。
共通言語作りを各社で重ねてみると、かなり共通する分野が頻繁に登場します。基礎的な知識・スキルなどですので、あまり業界・業態にも左右されることがありません。フェーズ1で学ばれることの多いこれらの幾つかの分野は、弊社において、定番の進め方が確立しているジャンルになっています。
中小零細企業の実態に合わせた共通言語コンテンツ
社内勉強会のフェーズ1において、共通言語作りが重要であることは自明と言って差支えがありません。しかし、教材などはビジネス書などを適宜購入したりする方法を採用したいとのご要望を戴くこともあります。そのような場合には、ビジネス書などの選定から、それを活用しやすいような学習項目記入用のワークシートまで用意することもあります。
しかし、これらの作業を幾つもの会社で反復するうちに前述の「定番の進め方」が確立しました。その後、多くのクライアント企業でこれらが社長は勿論、社内勉強会参加者の方々にも歓迎されるのは、以下のような理由が考えられます。
●中小零細企業の一般的な戦略をベースに採用しています。
ランチェスター戦略論で言うところの「弱者の戦略」など、中小零細企業がおかれた経営環境などを十分意識した内容になっています。例えば、マーケティングや差別化を考える上で、SWOT分析などはSの分析に時間を割き、それ以外の項目は殆ど触れません。どのような状況であれ、自社の数少ない強みを活かしてことに当たるのが多くの中小零細企業の宿命だからです。
●中小零細企業の幹部や社員の理解力に合わせた原理説明を徹底しています。
多くの中小零細企業において、幹部や社員の多くは書籍の内容を理解し、それを行動に反映させたり、それによって議論したりすることに全く慣れていません。かなり平易なビジネス書でも音読が満足にできない社員が殆どと言った状況になることは全く珍しくありません。そのような社内勉強会参加者でも、直感的に理解し、議論ができるようになるよう、原理原則は入門書のそれよりもさらに数段簡易にし、場合によっては多少の歪曲も辞さず、実践に沿うような内容にしてあります。
●中小零細企業の組織内でも自社ノウハウとして取り込めるよう、参加者に記録を用意させます。
残念ながら、学習した共通言語コンテンツを、ノートにまとめて、後にパワポに図示してまとめたり、さらにそれを後輩や部下に教えるなどコンテンツとして流用できる能力は、前項の理解力同様に極端に乏しい人材が多いのが一般的中小零細企業組織です。そこで、コンテンツの内容にあわせたワークシートや実習フォームを用意し、共通言語の考え方をきちんと記録できるようにしてあります。
●中小零細企業の個別事情を取り入れた説明内容にします。
本質的な差別化が常に模索されている中小零細企業では、その経営方針や営業方針によって、共通言語の斟酌や解釈が大幅に必要になることがあります。弊社の社内勉強会では、いきなり定番の研修を行なうものではなく、事前のヒアリングや業務状況の観察などを十分に行ないますので、事例一つとっても、参加者が身近に感じられ、且つ、実践に結び付けやすい説明内容となっています。
幹部・社員の言動がメキメキ変化する経営の共通言語
弊社の共通言語作りのコンテンツで、所謂「出来合い」状態で、クライアント企業の状況ヒアリングの後、その場でも開始できる状態にあるテーマは以下のようなものです。各テーマは説明だけであれば、各々1時間半から3時間程度の枠で実施できます。実習やディスカッションを絡めて、実践に結び付けやすい形にするためには、概ねその二倍の時間が必要となります。
●マーケティングの超基本:
単なる多数の事例から事後的に抽出された数々のカタカナ原理原則のコトラーやドラッカーの理論などを徹底して排し、古典的なマーケティングの知識だけで、自社の置かれた経営環境・ターゲット顧客とそのニーズの認識、さらに、具体的に(経営資源を集中投下すべき)戦術論の案出まで、比較的平易に理解できる内容です。
●差別化の超基本:
ランチェスターの「弱者の戦略」の原理理解から、中小零細企業の強みの分析とその構築の方法論など、単なる「コア・コンピタンスの適用」では、簡単に大手に潰されてしまいがちの中小零細企業ならではの差別化のあり方を平易に説明する内容です。
●人材育成と動機付け:
福利厚生策や各種手当てなども大手に比ぶべくもない中小零細企業における組織構成員の動機付け方法を新卒採用を例に取り、基本原理や幾つかの代表的動機付け理論を踏まえながら、社会貢献としての人材育成の観点まで、人材育成のあり方を網羅した内容です。
●人材採用プロセスの抜本的改善:
中小零細企業の採用活動に、マーケティング原理を持ち込み、採用方法論の抜本的な見直しを実現するために必要な、基本的な採用市場の原理や採用方法の選択肢などを分かり易く説明する内容です。
●オーナー経営者率いる中小零細企業における社員の役割:
オーナー経営者とサラリーマン社長の相違点に始まり、大手とは本質的に異なる組織運用のあり方まで、簡単に理解できる説明を重ねた上で、参加者から「大手企業羨み論」を一掃する内容です。
●できる社員の働き方:
タイムマネジメントの原理を少々取り入れ、若手社員がどうすればスキルアップするのかを考えるきっかけを作り、日常のルーチンがこなせるようになった後の次の一手を教える内容です。
●幹部に求められる資質:
オーナー経営者の代弁者・代行者である幹部に求められる4つの資質について、一般に流布する大手企業でのマネージャー論や役員論とは異なる切り口でウンウンと頷ける分かりやすい説明をする内容です。
●聞く営業のシステム化(VASS)の原理と実践:
多くの中小零細企業で省みられることのない「営業活動の標準化」。ターゲット顧客のニーズと販売する商品(・サービス)群を特定することにより、営業経験の少ない人材でも無理なくできる「質問によって完結する商談」の形をフォーマット化する方法を説明する内容です。フォーマットの雛形も幾つかのサンプルを提示します。
●お客様満足の超基礎:
言葉だけが先行して、人によって全く解釈がばらつきやすい「お客様満足」。それをほぼ100%ぶれなく社内勉強会参加者全員に共通に理解して戴き、お客様満足に関連する巷で用いられている各種の用語も平易に定義づけする内容です。
●(幹部向け)P/Lの超基礎:
簿記三級レベルでも問題ないレベルで、利益の上げ方をP/Lの構造理解から復習してみる内容です。
●(ライン部門幹部・社員向け)B/Sの超基礎:
製造部門や営業部門の幹部・社員に対して、簿記三級レベルの知識から、B/Sの構造を振り返り、資産の回転促進から利益を如何に創出するかを考え実践に移すための内容です。
●数字の読み方の超基本:
大手企業ではエントリーレベルの研修のどこかに組み込まれているのか、かなり常識的であるのに、中小零細企業においては殆どの社員が壊滅的に苦手なデータ分析。売上、粗利、営業利益、稼働などの月単位、お客様単位、アイテム単位などの数表があるとき、その読み取り理解の方法は、当り前のようでいて、いざ考えてみると、できる社員が少ないようです。その超基本的数字の読み方を説明します。
●ホスピタリティの基礎とカルテによるお客様管理:
滞留型の店舗などでのお客様満足度の向上をお客様カルテをローテクの紙ベースで取り組み、スタッフ全員で楽しみながら、お客様個々人に合った接客(ホスピタリティ接客)を行なうための内容です。
●『下流志向』読解による就労動機付け向上:
弊社のメールマガジン『経営コラム SOLID AS FAITH』でも特別号でネタになっている書籍『下流志向』の内容を読解することで、考えることや働くことの原理を理解して意欲を湧かせるのは勿論、さらに人生の価値の深耕が図れるような内容です。
●脱下請経営の考え方:
下請けと言うと製造業だけのことのようですが、特定の大手取引先に単純な売上構造としてだけではなく、事業全体が依存してしまっている状況にあれば、それは下請経営と看做せます。元請企業から支援・指導・指示に甘んじるあまり、仕入れも、採用も、コスト管理も、価格設定も、自社に全くノウハウがない状態の企業が、そこから抜け出るための指針をまとめた内容です。
●フェルミ推定による売上予測:
中小零細企業では、事業の差別化と深耕を重ねた結果、業界単位や既存の統計単位では需要規模やシェアが全く分からない状態がよく発生します。勘や経験則に基づくのではなく、最低限に論理的で妥当な需要予測をするには、フェルミ推定の応用が一番です。その基礎的な方法論を説明する内容です。
●記号消費の基礎:
消費が飽和し、高度に情報化した市場が果てしなく広がる日本の市場では、海外のマーケティングではほとんど意識されない「記号論」による説明が必須です。ボードリヤールの記号論などの入口を解説しながら、エピソードや物語を用いた価値の提示などにも言及します。自社のビジネスの付加価値を上げ、価格低下を抑制する方法論を解き明かす内容です。
●死すべき技術としての“経営”:
元来、組織統制技術を中核として形成された、現在の経営論は『巨象も踊る』などの書籍タイトルに見られるように、大組織を如何に管理するかに力点が置かれています。多くの大手企業組織でコンプライアンスが叫ばれるのは、そのような組織統制の負の側面も存在するからと考えることができます。一方で、中小零細企業の経営には凡事徹底など、当たり前のことをきちんと行なえば完結すると言う言説があります。本来、統制して維持するのではなく、人間として当り前の価値観において運営されれば実現できる経営観について説明する内容です。NPOなどの非営利組織の運営や各種団体などの組織運営にも応用ができる内容になっています。
このほかにも、テキストは用意されていず、口頭での簡単な説明による内容ですが、
● 「書籍の選び方」、
● 「ビジネス書の読み方(取り敢えず理解篇)」、
● 「ビジネス書の読み方(人に教えられるようになろう篇)」、
● 「議事録の意義と作成留意点」など、
社内勉強会運営に必須となるスキルを習得するためのコンテンツもございます。