経営方針と聞いて何を思い浮かべますか。よく会社のサイトなどに書いてあるビジョンや三ヵ年計画などでしょうか。大手企業向けの就活のパターンに慣れて、よく勉強している学生なら、公開企業が出しているIR情報などの最初の方に書かれている、経営の展望と指針のような部分を思い浮かべるかもしれません。
中小企業には、そのような“明文化”された経営方針は期待できないものと考えた方が良いでしょう。幾つかの理由があります。まず、中小企業への就活必勝法(2)で述べた通り、中小企業は規模が小さいので、経営環境の変化、特に市場の変化などに対して、臨機応変に対応することが非常に重要です。無意味な朝令暮改は勿論望ましくありませんが、時々刻々と変化するお客様のニーズや取引状況などに敏感でなくてはなりません。つまり、大枠の行動指針や商売上の価値観のようなものはありますが、企業経営における方針や計画のようなものをきちんと決めても、早晩書き換える必要が出てきてしまい易いと言うことです。
また、ここで述べた「商売上の価値観」なども、実質的にオーナー経営者の人生経験における商売上の価値観であるので、オーナー経営者の普段の言動やお客様への対し方などから、読み解き、学ぶものであったりします。中小企業の社員は人数が少ないので、社長の挨拶や考えを毎朝直接朝礼で聴くことができる場合が多いですが、そのような機会の中にも、中小企業の経営方針は含まれているものなのです。
仮にかなりきちんとした、つまり、企業活動にリンクした経営方針があったとしても、中小企業就活の落とし穴(2)で述べた通り、少なくとも外部の株主などに対して積極的に情報発信する必然性に乏しい中小企業では、それを明文化しておく必要性もあまりないからです。
勿論、合説のブースなどにおいて、中小企業の採用担当者が提示するパンフレットやプレゼン資料には、何らかの経営方針のようなものが書かれていることもあると思います。しかし、それらは、就活中の学生の採用に用いる目的で、今までの事業のありかたを振り返って言語化したものであることがほとんどで、その言葉そのものを社員が皆で考えたり、それに沿って日々の仕事の判断をしていると言うことは、ほぼないものと思っていいでしょう。むしろ、たとえば「お客様満足、第一優先」と言った言葉ではなく、オーナー経営者の創業時の苦労話とか、オーナー経営者の社員との関わり方などのエピソードなどの方が、その会社の経営方針を端的に表していることが多いです。つまるところ、中小企業の経営方針は、オーナー経営者の仕事上の価値観や人生観そのものであることが多いのです。