中小企業の社員のやりがいは、組織全体が見える立場で働くことができ、且つ、それを組織のトップが評価してくれ、場合によっては、自分の意見や裁量もどんどん採用されるということだと言えます。実は、このきめ細かな対応や評価によって嬉しくなるのは、社員だけではなく、中小企業のお客様もなのです。

ランチェスターの戦略論と言う考え方があります。詳しくは述べませんが、その中で、競争状態において、数に劣る“弱者”が、数で勝る“強者”に勝つためには、二つの方法論の組み合わせしかないと説明しています。一つは、「選択と集中」です。ランチェスターはこれを「戦闘局面を絞る」と表現しました。限られた経営資源を々な対象に分散させないで、限られたものに集中させることです。もう一つは、「武器効率を引上げる」ことです。これは「選択と集中」を行なった分野での強みを徹底して伸ばして、他を圧倒する強みを持つことです。

具体的に考えてみましょう。東京都内の私鉄の駅から伸びる商店街に小さな服屋があります。主に紳士物が強い店ですが、女性の服も子供服もそれなりの品揃えを持っています。その商店街に衣料品売場も広く持つ総合スーパーが出店することになりました。どう考えても、総合スーパーの方が価格も安く、品揃えも豊富です。おまけに、営業時間も長く、販売に当たる店員もたくさんいます。店員の商品に関する知識もかなりあり、来店客が質問すると、きちんと色々答えます。さらに売場は明るく、歩き回りやすく、とても魅力的です。総合スーパーのオープンから一ヶ月と経たないうちに、服屋の売上は激減してしまいました。

そこで、ここの服屋の店主は、創業以来初の大決断をして、品揃えをワイシャツだけに絞り込むことにしたのです。元々紳士物が強いので仕入はいくらでもできます。ワイシャツ売場だけで比較したら総合スーパーよりも豊富で、各種のサイズや柄のバリエーションも豊富に用意できました。今までの来店客の方々をどんどんカルテのようなデータにまとめて行って、一人ひとりのお客様の体型はもちろん、色々な好みや、連絡方法まで、きちんと記録して言って対応することにしたのです。さらに、店員皆でワイシャツのことばかり、色々と勉強させました。ですから、専門的なことまで、普通に説明できる社員ばかりになりました。その結果、売上は以前よりもよくなるぐらいになりました。今となっては、総合スーパーが商店街に人を集めてくれるせいで、むしろ、新しいお客様も獲得できるようになりました。

お分かりでしょうか。ワイシャツに絞ったのは「選択と集中」です。それに対して、社員でその分野を勉強したり、ワイシャツを求めるお客様の情報をどんどん把握して、きちんとした接客ができるようにしたのは「武器効率を引上げる」ということです。中小企業は人も少なく、それ以上に資金や営業力も大手に比べて見劣りします。ですので、絞り込んだピンポイントの分野で、確実に勝てるような質の高い経営を目指す必要があるのです。
総合スーパーではたくさんの来店客の一人にしかならないお客様も、この服屋の方では名前で呼ばれるだけでなく、自分のことをよく知ってくれている上での対応をしてもらえるのです。中小企業の社員が感じる魅力と同様の構造がお客様にも存在することが分かると思います。