差別化とは、他社と違えばよいのか

よく「差別化とは他社と違うことをすること」と説明している経営者が居ます。結果的にこれで嘘はありませんが、ただ、そのように聞くと、他社と違えば何でも良いように思われます。仮に競合状態が激しい或る業界で、「差別化をしよう」と経営者が叫び、全社がそれに従って、自他共に認める他社にはないやり方を確立したとします。しかし、それが何らかの益成すものなら、当然、同業他社が放っておく訳がありません。すぐ、同業他社も模倣し始めることでしょう。

そうすると、最初の会社(仮にA社と呼んでおきます)の差別化は、成立しなくなってしまいます。そこで、A社の社長は、「もう、前の差別化では駄目だ。今度はこんな差別化だ!」と叫び、全社を率いてまた別の新たな差別化に成功したとします。しかし、これまた、一定の益を成すものなら、他社が放っておきません。たちまち、模倣され、元の木阿弥です。

こんなことをしていては、限りある経営資源が、タダでさえ、大手に比して乏しい中小零細企業は、あっという間に疲弊してしまい、競合状態を保つことはできなくなってしまいます。このようなことを本当に差別化というのでしょうか。どうも、「相手がこうやるから、ウチはああ行こう」や、「皆がああやるから、ウチはこうやろう」と言う消去法的な判断の先にはこのような不毛な結果が待っているように思えます。

そこで、差別化とは具体的にどのような違いを実現することなのかを、シリーズの最初に考えてみることとします。

他社にはない強み コア・コンピタンス

コア・コンピタンスと言う言葉があります。競争優位点などと訳されていることもあります。他社にはまねできない強みと言う意味では、適訳かと思われますが、折角、頭に「コア」がついているので、主要競争優位点ぐらいの訳が良いのかもしれません。
※ コンサルタントではなく、企画屋の弊社としては、用語の正確な定義は、専門家にお任せしたいと思います。ここでは、適宜、そのような言葉があると言う程度で遣いまわします。

例えば、弊社代表は、ヤクルトの整腸剤を愛用しています。弊社代表の家で、「ヤクルト」と言えば、飲料のほうではなく、粉末で水なしで飲める整腸剤の方を指す程です。ヤクルト社のサイトを見ますと、商品群は多種多様です。一番有名なのは、商品名の方の「ヤクルト」を含む飲料の商品です。それ以外にも、ヨーグルトなどの食品、化粧品、整腸剤などの薬品もあります。これらの商品には、一般の販路では手に入りにくいと言う共通点もあります。

なぜ、このような広い商品群をヤクルト社は手掛け、飲料分野でも多々存在する競合の中で生き抜き、食品は食品で、化粧品は化粧品で、医薬品は医薬品で、各々の業界で巨人が犇めき合う中で生き抜くことができるのかと言うことが気になります。それを可能にしているのがこの会社の強みと言うことができるでしょう。そして、それは多分、

★乳酸菌(バイオプロテクス)関連の高度な技術
★独自に広く構築された販路

の二点ではないかと思われます。これらの二点は、基本的に、ヤクルト社のどの事業にも組み込まれており、それが、各事業分野(=各業界)において、この会社の製品の居場所を作る結果になっているように思えるからです。このように、特定企業の事業全体に横断的に適用されている、他社にはない強みを、取り急ぎ、ここでは、コア・コンピタンスと呼んでおきます。

コア・コンピタンスの脆弱性と、その他の差別化ポイント

その会社の決定的な強みが、常に観察されると言うことは、或る意味、その強みを研究しやすいと言うことでもあります。相手がいつも、一つの決め技で勝とうとすることが分かっているのなら、こちらは、その技をかけられないような場面で闘うか、その技を破る方法を考えれば良いように思えます。

※参考:『経営コラム SOLID AS FAITH』 第150話 『勝者の決め技』

現実に、特許などを強みの拠り所としても、いつかは迂回されることでしょう。また、高性能な設備による生産体制も、いつかは、その設備が陳腐化しますし、大体にして製品のサイクルが極めて短くなっている昨今、その設備を必要とする需要自体が、簡単に消滅する可能性さえあります。事業拠点が多いと言うようなことも、競合他社が莫大な投資をして、拠点を作れば、優位性はあっさり覆されることでしょう。多くのコア・コンピタンスは、常に見え、常に使い回されるが故に、脆弱であると言う考え方も成立します。

それでは、模倣されにくく、打ち破られにくい差別化のポイントは何であるのかと言うことになります。中小零細企業などの場合は…

●大手が魅力を感じないような規模の市場への特化
●簡単に、模倣できないような特殊な自社開発ノウハウの蓄積
●組織規模の大きさ故に、大手が徹底できない「経営の質」の追求と実現

などのように感じます。

そして、上述の三つのうち、下の二つは実質的に、「ヒトによる差別化」と弊社では理解しています。
具体的には、

★ 教育・育成などの徹底による、ヒトの質の向上の実現
★ その結果のヒトのスキルとマンパワーの特定課題への集中投下
★ さらに、それらのヒトを活用する仕組みの実現

によって確立していることが殆どです。

例えば、中小製造業で、最新鋭の設備を入手したところで、大手企業は(その設備の活用により開拓できる)市場を見出す限り、すぐ追随してくることでしょう。そこで、特定分野の商品群・材料群・顧客群などに絞り込んで、その設備を柔軟に使いこなせるようなノウハウを、まず、何人かの技術者で弄繰り回して確立します。その後、それを徒弟制的な集中教育の仕組みで一般工員に広めつつ、標準化し、さらに、その工員らの現場力を引き出しながら、段取りや工程の見直しによって、利益率の向上を図るなどの施策がとられます。この場合も、この設備を所有していることは間違いなく、コア・コンピタンスですが、上述のような分野のヒトによる見えにくくきめ細かな差別化要因が積み重なって、最終的に模倣されにくく、凌駕されにくい差別化が成立していることになります。

小売業でも、特定商品の取り扱いができることや、立地、店舗面積、店舗数、大規模な顧客DBなどは、コア・コンピタンスですが、それらの各々は、それなりの投資と時間をかければ、競合他社も入手できるものでしょう。そこに、緻密な顧客動向分析のノウハウ確立とその分析の継続や、レベルの高い店員による接遇、さらに、顧客ニーズに合致した販促の実施などを組み合わせることで、模倣しにくい差別化が成立します。

こうしてみると、コア・コンピタンスよりも、主にヒトによる目立たない差別化のほうが、最終的な会社規模の差別化に貢献しているようにさえ考えられます。そこで、このような差別化ポイントを、コア・コンピタンスが「核」だと言うことに対応して、「ペリファラル・コンピタンス」とでも呼ぶことにします。「ペリファラル」は「周辺の」という意味です。

※ 無論、別に他の呼び名でも構いません。ヒトによるものであるので、「ヒューマン・コンピタンス」でも良いでしょうし、大抵はローテクなヒトの営みの積み重ねの結晶であるので、「ローテク・コンピタンス」でも構いません。

いずれにせよ、原理は以上のようなことで、差別化は、コア・コンピタンスの周辺にペリファラル・コンピタンスが幾重にも重なって、実現することになります。そして、一般に規模の小さい企業においては、コア・コンピタンスがそれほどに強力ではなく、ペリファラル・コンピタンスの数が多く、また、その各々の独自性や極端さが際立っているケースが多いように思われます。

差別化の基礎② 『差別化と顧客ニーズ』のページに続く