■VUCAと呼ばれる経営環境と生産性改善

VUCA。インターネット以前の時代などに比べて、今の時代の状況を指すと言う表現で、Volatility(不安定)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(曖昧)の4つの単語の頭文字でできています。不安定で不確実な上に、複雑で曖昧な情報を元に、相応に妥当な中長期的な経営判断などほぼ不可能と言っていいでしょう。しかし、同じ厳しい経営環境の中にあっても、大胆で素早い行動が苦手な大手企業に比べて、機動性を高める余地が大きく、潜在的な段階のニーズに対しても大胆にアプローチが可能である中小零細企業には大きな機会が訪れているとみることもできなくはありません。

「皆が『普通そうだ』と思っていることが、そうはならない」ようなこともどんどん起きます。「昨日までそうだったことが、今日はもうそうならない」ような場面も頻繁に起こり得るということです。そんな中で経営をする以上…

  • 以前以上に、精緻に把握したお客のニーズに従属し、
  • 以前以上に、仮説と検証のサイクルを回し、
  • 以前以上に、大胆に差別化を進める…

ことが重要であろうと弊社では考えます。

そして、もう一点、VUCAによって、経営に試行錯誤の色合いが濃くなるので、成功した場合の利益も大きくなっていなくてはなりません。それには、ニーズを精緻に把握して機動性を持って対応することによる収入の増大も重要ですが、オペレーション上の無駄の排除など、内部でコストの発生を抑制することも利益増大に当たって軽視できません。それはトータルの生産性改善が本気で求められているということに他なりません。

■先進国の中で日本は生産性が低いという議論

「日本の生産性が米国に比べて著しく低く6割程度しかない」という議論があります。弊社ではそのような社会調査にノウハウがあるわけでも深い理解があるわけでもありませんが、当然そうであろうと考えています。

この議論の有力な根拠の一つは、2015年の日本生産性本部の調査で「就業者の労働1時間当たりのGDP」で計算されていて、米国は68.3ドルで日本は42.1ドルとなっていて先進国7ヵ国中最下位だとされています。しかし、GDPを労働時間で割った数字が生産性と呼べるのかも問題ですし、そもそもGDPも就業者数も労働時間数も各国で計算方法が異なります。

本来、企業の付加価値の計算は、「営業利益+人件費+減価償却費+支払利息」です。国家単位のGDPの議論を企業単位や職場単位の生産性や付加価値に単純に置き換えてよいのかという問題もあります。

ただ、日本人の人件費は平均すれば総じて高い上に、アウトプット量がその高い人件費を重ね続ける長い労働時間に見合うほどに大きくないことによる「生産性の低さ」という主張そのものには一応頷くところがあります。

全世界的に有名な「ジャパン・クオリティ」が生み出される構造を考えた時に、緻密な判断と対応が企業内の業務プロセスのありとあらゆる所に張り巡らされている結果と考えるのが妥当であろうと弊社では認識しています。たとえば、同僚の電話を受けたらメモに残し、その後メモを見てアクションを取ったかどうかを本人に確認するのが良いマナーとマナーの基本書にも書かれています。しかし、そのためには自分の本来の業務と並行して、メモの受け手の存在を走査し、行動をフォローしなくてはなりません。

このような過剰な業務品質確保のための行為を当たり前だとみなす他の先進国の職場の存在について弊社代表の市川は耳にしたことがありません。電話を受けるだけでもそのようなことですから、業務の様々な部分にこのような配慮があれば、生産性が上がらないのが当然です。そのような過剰なほどのレベルの高いQCDは世界各国で評価されていますが、日本国内ではできて当然のことなので、利益が失われるのを防ぐ効果はあっても、利益を膨らませる効果は薄いことでしょう。それであれば利益性が低くなるのは当然です。

おまけに、日本国内には同じ業種内の企業数がやたらに多いことも知られています。たとえば自動車産業でも世界的にも知られた企業が日本だけで片手に余るほど存在します。弊社代表の市川は嘗て写真用フィルムのメーカーに勤めていましたが、その時代でさえ、全世界にたった5社しかない自社工場を持つフィルムメーカーのうち2社が日本のメーカーでした。国内市場にそれだけプレーヤーが多ければ、競合は激しくなりますから利益が薄くなるのも当然です。しかし、その結果、消費者は多様な商品サービスを比較的低廉な価格で手に入れることができているのです。

(その点、欧米の企業戦略は同業他社間でM&Aを繰り返し、寡占化・独占化を進めるのが通例です。その結果、価格は上げどまり、新規的な取り組みは生まれなくなり、消費者の不利益の上に、企業が利益を伸ばす構造が生み出されているとみることができるのです。)

■ミクロ的な生産性改善からマクロ的な生産性改善へ

VUCAの時代。そして元々利益性の低いビジネスを展開せざるを得なくなる国内経営環境を考える時、生産性改善は必然です。従来、生産性改善と言えば、製造現場から生み出された「ムダ取り」や5S活動などが主な手法として想起されます。それらの重要性は今も色褪せてはいません。またシックス・シグマなどに代表される品質管理も、各種のロスをカットするのみならず、クレームの発生やPLリスクなどを大きく抑制し、経営の広範な分野でコストカットに貢献するものです。事務部門でも、ペーパーレス化など既存の業務の流れを電子化することなどによって、生産性改善は進展してきました。

それらの活動の成果は、経済学の「収穫逓減の法則」のように、終わり無く続けられても、大きく成果が伸びることが少なくなっていくように思えます。むしろ、お客のニーズに純粋に従属した事業ドメインの絞り込み(=不採算事業や関連性の低い事業の停止)や、より付加価値の高いビジネス・モデルへの転換から検討することで、仮に減収になったとしても増益が図れる(ないしは、減益だったとしても、利益率は向上し、組織のダウンサイジングに成功している)ケースは多くみられます。

弊社では中小零細企業のクライアントに対して、従来型のミクロ的な現場レベルでの生産性改善に加えて…

  • 事業の見直しと絞り込み
  • 業務単位の内部で行なうか専門アウトソーサーへ委託するかの腑分け
  • 内部業務も正規社員で行なうか非正規社員で行なうか、提携ICに委託するかの見極め
  • さらに内部に残った業務に関わる…
    ・人員の教育
    ・ツールの開発による省力化
    ・ICT技術・メカトロ技術導入による自動化

を企画し、実現に向けての支援を行ないます。

従来の下請業務会社や元請業務会社の後継者不在による廃業を機会に、事業買収による垂直統合を行なって生産性を引き上げるなどの対応を支援したこともあります。上述のステップは基本的なものですが、その実現方法は多岐にわたっていますので、クライアント企業の置かれた状況や組織の内部状況に応じて、個別に具体的なアクションのありかたを企画立案いたします。

もちろん、営業部門内における担当者全員を対象にしたスキルの標準化や営業プロセスの高効果化などによる機能的な生産性改善を具体的に支援するケースも多数手掛けていますし、サービス店舗などを中心に幾つかのクライアント企業で人時生産性の導入による生産性の恒常的なモニタリング体制を作るケースもあります。