典型的文鎮型組織の営業組織の想定

中小零細企業の営業組織を形成・強化してゆく方法を考えるに当たり、まず、その組織はどのようなものかを想定しておかねばなりません。ここでは以下のような中小零細企業とその営業組織を想定してみます。

モデルとしての中小零細企業(以降、「モデル的中小零細企業」と呼びます)ですので…

●オーナー経営者がトップとして率いる典型的な文鎮型組織
語弊を恐れずに言えば、オーナー経営者が決裁権から何から、事実上すべての権限を握っており、それ以外の社員は、幹部や役員と言えども、担当者レベルの社員と職掌上、殆ど違いがないような組織を想定します。幹部が幹部になったのは、年功の結果であり、必ずしも「デキル社員」として結果をたたき出したからではありません。当然ですが、営業の名刺を持つ者にも、ダントツの営業成績を持つ者は居ません。

●社員数20名弱。製造業か卸売業
製造業の場合は、自社で地方に製造拠点を持つものの、都市部の本社機能には20名程度の社員が居るようなケースを想定します。または、自社ブランドの有無に関係なく、基本はファブレスの製造業と言う想定でも構わないでしょう。卸売業の場合は、小規模の倉庫などが事務所に隣接して存在するような組織です。
いずれにせよ、営業管理、経理総務の事務などの事務職の社員や、製造業の場合の技術系の社員、卸売業の場合の物流関係の社員などの存在があるでしょうから、実質、営業の名刺を持つ者は10名余と言う感じと考えます。

●営業社員は、全員中途採用
営業社員は全員、営業経験を一応持っていると言うことで、求人誌などの媒体で応募してきた者を選考して採用した者です。応募者は少ないので、年齢や面接時の受け答えの明瞭さなどの観点から、比較的安易に採用されています。当然ですが、人材紹介などは活用しておらず、新卒の育成などもしたことがないと考えておきます。営業経験はあるという評価で採用している訳ですから、採用当初の数日の同行以外は、何らの体系的な研修制度などもなく、担当する顧客を持たされたまま、営業として活動を続けているような状態です。
敢えて言うと、会議などの席で、社長が自らの営業の方法論を述べ、社員の営業方法を批判したりするのが、唯一の教育の機会と考えることもできます。特に当初の同行者が社長であるようなケースでは、大抵、社長の営業ノウハウが、(本人にとって都合の良いところを中心に)伝授・模倣される様な結果になります。

●顧客は法人。一般的には、自社よりも大きな組織
製造業でも卸売業でも、顧客は基本的に自社より大きな組織か、自社より小さくても長年の取引関係のある法人。取引の場面では、こちらが主導権を握りにくく、営業社員は顧客の値下げ要求を恒常的に意識している状態です。また、2:8の原理そのままに、比較的少数の顧客が売上や利益の構成比上、大きなシェアを占めているのも特徴です。それが余計交渉力を弱める結果となります。
製造業の直販などの場合で、個人の顧客を想定することもできますが、その場合は、長年その商品を利活用していて、商品情報などを熟知しているこだわり型の顧客で、一般的に経済的には余裕のある人々です。どちらにせよ、顧客との関係はかなり継続的で、特に卸売業の場合には立地的にも比較的狭い範囲の顧客と密な関係が保たれている状態です。

●営業社員は事実上、顧客維持に専念している
新規の顧客開拓は、実質的に、オーナー経営者が人脈などを活かして行なっており、その結果開拓された顧客を営業担当者が割り当てられて、取引を行なっていくこととなります。営業組織全体で目標を掲げた結果、営業社員が何らかの新規顧客開拓の活動を、実践することはありますが、大抵、目覚しい結果が出ないままに、終わります。

「オーダーゲッター」 と 「オーダーテイカー」

営業スタイルの分類には各種の説や定義があり、どれも、その説明の中では便利ですが、一般化がかなり困難なものが多く見られます。例えば、転職などの際に、営業職の求人案件の説明を読んでも、また、面接で概要を聞いてさえ、実際の営業活動の様子や一日の時間配分などを想像することはかなり困難です。

宅配便の会社のトラックドライバーを「セールスドライバー」と呼ぶケースや、事務機器メンテナンスの技術者を「セールスエンジニア」と呼ぶケース。さらには、アウトバウンドが或る程度高い比率で混在しているコールセンターの担当者など、一般に営業担当者と言う括りには入りにくい職掌の中にも、企業の売上に大きく貢献している人々は存在します。こららの職掌の人々が、どの程度、営業担当者として機能しているかは、規定の職掌上の分類よりも、どちらかと言うと、担当者個人の認識によって左右されているように見えます。 このような人々を仮に営業担当者として括ると、かたや一方に存在する、「飛び込み営業」や「フルインセンティブ営業」などのバリバリの営業担当者と同じカテゴリーで括ることに無理があるのは自明です。

そこで、日本ではあまり耳にしたことがありませんが、留学中にマーケティングのクラスで最初に習い、その後、幾つかの経営学のクラスで使われていた、「オーダーゲッター」と「オーダーテイカー」と言う概念を持ち出して、大雑把に営業担当者を機能によって分類することとします。私の持っている教科書によれば…

● Order Getters: Salespeople concerned with getting new business
● Order Takers: Salespeople who sell to the regular or typical customers

となっており、端的に言うと、オーダーゲッターは新規顧客開拓、オーダーテイカーは既存顧客の維持を行なうという定義になります。しかし、これでは、どのような場合に、案件を「新規」と認定するのかが問題になります。

そこで、「顧客」と「商品」の二軸を考えてみます。
「顧客」の方は、今まで(例えば、過去三年以内などの区切りは必要ですが)の取引の有無で、「新規」と「既存」に分類します。また、「商品」の方は、ライン・アイテムなどが変わった程度では「新規」と認めず、カテゴリーレベルで新たな商品の取引をすることになった場合に「新規」、それ以外を「既存」と認識することとします。

そうすると、「顧客」と「商品」の二軸に対して、「新規」と「既存」の二分類があるので、合計四分類の取引が存在することになります。これらの四分類の取引の成立維持をオーダーゲッターとオーダーテイカーの機能として分類・対応させることと(弊社独自に、つまり、勝手に)します。

●オーダーゲッター:
「既存顧客」と「既存商品」の組み合わせ以外の三分類の取引を担当する(営業)担当者
※一定期間後、これらの三分類は「既存顧客」と「既存商品」の組合わせに変更するルールが必要でしょう。
●オーダーテイカー:
「既存顧客」と「既存商品」の組み合わせを担当する(営業)担当者

中小零細企業組織における 「オーダーゲッター」 と 「オーダーテイカー」 の実際

冒頭での説明から、モデル的中小零細企業組織を考える時、営業の名刺を持つ者は、全員(瞬間的、刹那的な例外はあるでしょうが)基本的に「オーダーテイカー」と呼べることになります。そしてこのモデル組織において、「オーダーゲッター」はオーナー経営者である社長ただひとりと言うことになります。

社長になってみると分かることですが、その肩書きゆえに、先方のアポも一般には取りやすくなり、会社全体の機能を全開にしなくてはいけないような案件に対する決裁も容易になるなど、所謂「トップセールス」が、社長には可能です。しかし、これは一方で既存の会社のルーチンを無視した案件の獲得をしてしまうことや、その案件の獲得時点でも細部を余り詰めないで部下に任せてしまうことから、案件の成立確率は、それほど高くないものとなることが一般的です。

それでも、オーダーゲッターの方は、社長一人なのですから、話は簡単ですが、オーダーテイカーの方は、注意が必要です。例えば、モデル組織が卸売業で社員が配達を行なっている場合、その配達担当者が「今度の新商品のパンフレットを是非ご覧下さい」と先方購買担当者に接した場合、本来のその顧客を担当している営業担当者以外に、オーダーテイカーの機能を果たしている者が存在することになります。

同様に、事務担当者による日常業務上の簡単な新サービス案内や、経理担当者による請求書のカバーレターへの一言の書き添えなども、機能としてはオーダーテイカーと言うことに一応分類可能です。このように考える時、「全社員営業」などのコテコテのオーナー経営者が好きな言葉も、十分に意味を成してきます。顧客側から見ても、接触の頻度が高いのは必ずしもオーダーテイカーの営業担当者ではなく、これらの非営業と言う肩書きになっていながら、事実上、オーダーテイカーの機能を果たしている社員であったりします。

そこで、中小零細企業の営業組織を考える上で、上述のような組織図上は営業所属にはなっていなくても、機能上オーダーテイカーとなっている人々も、オーダーテイカーの一種として扱うこととします。

● 中小零細企業の営業組織改善② 『中小零細企業の営業組織の改善の方向性』 に続く