社内勉強会は、組織のニーズによって、各種の使い分けが必要です

社員が参加する勉強会はどのように進めるべきなのか。クライアント企業のオーナー経営者からよく尋ねられる質問です。製造業などの企業では、経営者が既にQCなどの知識を持っていて、それをイメージするケースもあります。

大手企業や外資系企業での勤務経験がある社長は、特定の課題の解決をテーマとするプロジェクトを連想することもあります。この場合のプロジェクトは、システムの開発と導入、ISO取得などの、組織全体に関わるような大きなテーマとなっていることが多いように感じます。

弊社では、創業の初期の段階で、長期に渡る「レベルアップ」を図って、手詰まり感のある小規模組織の経営を変えて欲しいとのご依頼を頂戴して、例えば、ファシリテーションやアクション・ラーニングのような集団を相手にした動機付けや育成の手法が知られていない頃から、社内勉強会の運営を模索することとなりました。その当時から現在に至るまでに、クライアント各社から頂戴した依頼に基づいて、社内勉強会の種類分けを行なってみました。目的と運営形式の違いから、主に以下のようなタイプに分かれるものと考えています。

●プロジェクト型社内勉強会
●課題解決型社内勉強会
●知識・ノウハウ共有型社内勉強会
●啓蒙型社内勉強会

これらの分類は、あくまでも類型であって、これらのうちのどれか一つに必ず総ての企画が分類されるということはありません。むしろ、回毎に、これらの類型の「どれかっぽくなる」ようなものだと考えた方が現実には近いように感じます。

1 プロジェクト型社内勉強会

プロジェクトと呼ぶ訳ですので、一般的には、特定の課題がはっきりしていて、課題解決の道程もほぼ間違いない形で決定しているということになります。道程が明確である以上、必要なスキルを持っている参加メンバーも、半自動的に特定されている状態で開始されます。ただ、零細組織(社員数で50人以下)のクライアント企業が多い弊社の場合は、テレビで見る『プロジェクトX』のような大規模で、数年を経て目的が達成されるようなケースは殆どありません。

例えば、初めて業界団体が主催する展示会に出展するので、その準備や当日の運営、後処理などを滞りなく終わらせるなどのテーマも十分にプロジェクトとなり得ます。また、入社後の新卒社員を一定期間、スキルマップに従って間違いなく予定通り教育するなども、立派なプロジェクトです。

テレビの『プロジェクトX』と異なるのは、参加者が実業の片手間にプロジェクトに参加していることです。勿論、プロジェクト参加も、間違いなく「業務」なのですが、本業(一般にライン部門)の業務を投げ出して行なえるほど、弊社クライアント企業に人材は潤沢に居ません。よって、実業の繁忙期などにはプロジェクトの進展が大きく制限されがちです。その結果、プロジェクトとは言っても、果たされる目的・達成される目標と納期のどちらかが犠牲になるケースが多く見られます。

このどちらかが犠牲になることを善しとして実施するため、敢えて弊社ではこれをプロジェクトとは呼ばず、プロジェクト型社内勉強会と呼ぶことにしています。改善などを目的として社内で行なわれる小集団活動、所謂QCなどもこのタイプと言うことになります。実際に、ガントチャートなどで計画は作っても、社員の裁量ではそのスケジュール維持が非常に困難になることが多く、結果的に成果の質か納期かのどちらかが犠牲になることが頻出します。

2 課題解決型社内勉強会

プロジェクト型社内勉強会と、特定の課題解決を目的としている点で全く一緒です。課題解決型の社内勉強会がプロジェクト型社内勉強会と異なる点は、参加者の資質です。プロジェクト型社内勉強会の説明の冒頭で述べたように、通常、プロジェクトにおける課題解決の道程はほぼ見えており、想定されるステップを確実に「消化」してゆけば、一応、結果が出ることになっています。

問題なのは、中小零細組織において、現業に携わることにさえ十分なスキルがない社員が多い状態で、そのような道程を辿ることができるかと言うことです。また、中小零細企業が差別化を眼目として経営を行なっている以上、大手企業では当り前の戦術は採用できないケースが多々あります。その結果、未曾有の展開の待っている課題解決と言うことになってしまいます。多くの零細企業において新規事業の開始などはこのパターンになります。

この結果、課題の特定さえ怪しくなってきます。問題ははっきりしても、それを課題の形にまとめきらず、まとめきらない以上、課題解決も遠のくという状態でスタートしなくてはいけない社内勉強会です。過去、弊社にご依頼いただいた中で、最も事例の多いこのタイプの社内勉強会では、まず、経営者の意向を理解できる(つまり、課題解決の朧気な枠組みを体感している)社員をメンバーとして選びます。そして、それらの参加メンバーが他社事例や他業種事例、場合によっては経営学の関連分野の基礎まで学ぶところから始め、課題解決の方法論を模索するところから社内勉強会を始めることとなります。

当然ですが、このような状態になると、何が起こるか想定が非常に困難ですので、事実上、完了時期の設定も不可能です。それでも、経営の根本的な知識などを学習した社員の存在が組織を活性化してゆく過程は、課題解決の直接の結果以上に重要との評価は多数頂戴します。

3 知識・ノウハウ共有型社内勉強会

明確な課題やその元となる問題もはっきりしない状態で、社員の質の向上を目的として開催される勉強会もあります。例えば、営業など組織の優秀な販売事例などを発表する機会を設けることを軸に、営業のノウハウ本の内容や、顧客企業の業界などの情報(業界紙誌や業界団体の会報の記事など)を紹介する定例会などです。最近のクレームの動向やその対応方法などを学ぶことも有意義でしょう。

この場合、各々の営業担当者が 具体的に社内勉強会の内容をどのように活用する気であるか、または活用したかは、管理されていません。その意味で、何らかの課題が解決するか否かも怪しいですし、当然、何らかの納期もありません。ただただ、継続することに意義があるというような社内勉強会となります。

多少、不経済な展開ではありますが、この社内勉強会の参加者を限定して、参加者から非参加者に内容の伝達をする仕組みとすると、コミュニケーション能力の向上がはかれるなど応用もあります。また、「会社がそのようなことを教えてくれないからできない」、「自社には社員を育成する仕組みなどない」などの指示待ち型や単なる無責任で主体性のない社員の意見を封じることを主目的として、このような社内勉強会を開催している企業もあります。

4 啓蒙型社内勉強会

前項の知識・ノウハウ共有型社内勉強会と類似しているタイプですが、前項が社員のスキルの向上を図っているのに対して、社員の動機付けなどを主たる目的としているところが異なります。例えば、給与体系を経営者が変えようと考えている場合、経営者が考えた賃金のあり方は、多く社員のそれとは異なります。そこで、働くこと自体に対する考え方まで遡って説く場を設けたり、自社の方針とそこで評価される人材のあり方を説明する場を設けたりするような取組みが有効となります。

さらに、離職率の高い組織や職場において、離職のデメリットや労働市場のあり方などを解説すると同時に、自社の魅力や理念などを合わせて話し合うことなども、かなり有効で、離職率の抑制効果が望めます。 このような社員の意識面の向上を図る会を、弊社では啓蒙型社内勉強会と呼んでいます。

弊社でも定番になりつつある「愛社精神研修」などもこの社内勉強会の類となります。さらに、キャリアやスキルなどについての現実を若手社員に理解させるために、弊社代表が私大の学生に講義として聞かせた就労観をテーマに「座談会」のような形式で話し合う場を設けるやり方などもあります。他のタイプの社内勉強会の素地を、社員・スタッフの間に形成するために、書籍を読み学ぶ楽しみを理解させる“社内読書会”などの運用も簡単にできます。 また、このような形式は社内に留まらず、内定者の囲い込みや、モニター顧客の動機付けなどにも応用ができます。