中小零細企業組織における 「オーダーテイカー」 強化と顧客満足

繰り返しになりますが、オーダーテイカーは既存顧客を相手に既存商品を販売している訳ですから、その改善・改革による売上・利益の向上は、原理的には単純な筈です。見ず知らずの新しい顧客とは異なり、顧客情報は充実し、使用事例の紹介もおぼつかない新商品を扱う訳ではないので、提案も或る意味自在にできる筈だからです。

売上向上は、よく言われる通り、単価か数量の積を上げることに他なりません。既存顧客・既存商品の組合わせの中では、(業種や業態によって限界はあるでしょうが)購買頻度・購買量・購買商品単価などの引き上げを提案によって行なっていく他にないでしょう。これらの策の多くは、顧客のニーズをよりよく満たすことによって為し得られ易いため、結果的に顧客満足策の充実に繋がっていきます。

このような改善・改革では、まず第一に顧客のニーズを分析が必要となります。続いて、顧客が購買を行なうプロセス、即ち、自社から見ると営業プロセスの中で、顧客満足が高まるような改善・改革を行なっていくことが必要になります。
※営業プロセスではありませんが、販売における顧客接点の改善はこちらのページをご覧下さい。

つまり、日常の営業業務の中で、顧客側が自社に対して持つイメージが決定されていく「箇所」を、各々改善して行くことで、自社のマインドシェアを引き上げ、顧客満足を増大させることで、売上や利益の向上を図るということになります。その中では…、

●営業の訪問回数の増加策の実現などが検討されますが、その結果、ラウンダー的人員の配置などを含む、
「オーダーテイカー機能」の中でも更なる段階的な役割分担の発生もあり得るでしょう。

●さらに、商品紹介も、顧客情報をよく分かっている強みを活かして、商談の構成要素である「FAB」の中でも、特にBを強調するようにすることなども簡単にできる筈です。

【参考】
商談の構成要素の分類であるFABも、よく言われることですが、ここでは以下のような弊社の便宜上の理解として使われています。

★Feature (特徴)
その商品のスペックなどを指す言葉です。商品がどのようなものかを仕様として伝える情報と考えます。
★Advantage (利点)
その商品の取り分け競合商品などに比べた場合などの、優位点についての情報と考えます。
★Benefit (利益)
その商品が特定の顧客に対してもたらすメリットについての情報と考えます。

例えば、私が持っている水性ボールペンにはグリップ部分にゴムがついています。よって、
●「胴体部分にゴムがついている」はF。
●「胴体部分にゴムがついていて、握りやすく、長く書いても疲れない」はA。
●「胴体部分にゴムがついていて、滑りにくく、汗かきの▲▲様にはうってつけ」はB。
と言うことになります。

当然ですが、FABのうち、FとAは、顧客を限定しなくても言えることです。つまり、わざわざ営業担当者が説明しなくても、パンフレットにでもホームページにでも書いておける情報です。それに対して、Bは、顧客情報を収集し理解していなくてはきちんと提示することができません。営業担当者と言う人件費を伴う高価な販売手法を採用する以上、Bを商談で提示することは或る意味必然と考えられます。

 「オーダーテイカー」 による顧客満足向上の結果測定

一般に顧客満足の活動を行なうと、その結果の測定方法はアンケートやヒアリングなどの、直接顧客に対して満足度を尋ねることが挙げられます。しかし、対象者数が母数の段階でそれほど多くない上に、その中の一部の意見を聞いたところで、参考とできるかどうかははなはだ疑問です。取り分け、一般的に店舗に比べて顧客数の少なく、継続性の高い密な関係が多い営業活動においては、顧客に尋ねると言う行為自体が、既に「密な関係」としてはおかしいことのようにも映ります。つまり、日常の関係性の中に「顧客満足」の向上は “感じられる” べきであると言うことになります。しかし、ただ、 “感じられるべき” としていては測定にはなりません。何らかの基準の下に、定量的に測定できることが望ましいと言うことになります。

CS(顧客満足)型のマーケティングなどの書籍によれば、掲げるべき目標や活動の特徴として、3Rと言うものが紹介されています。これも説が幾つかあるようですが、ここでは、弊社の便宜上の理解を以下に紹介いたします。

★Referral
動詞は、refer (言及する)ですので、その名詞は「言及すること」です。つまり、顧客が自社や自社商品に関して言及することを指していますので、口コミと解釈してよいでしょう。

★Retention / Repetition
retention の意味は「保有」や「保持」です。repetition は、動詞 repeat の名詞ですから、反復と言ったところでしょうか。つまり、顧客が維持されている状態を指していることになります。前者は、幾つかの案件が並行して一社の顧客相手に進行している状態を想像すると、やはり、営業向きの表現ですし、後者は、来店客が反復してくるイメージから店舗販売に向いている表現のように感じられます。いずれにせよ、所謂「顧客の囲い込み」が行なわれている状態と解釈してよいでしょう。

★Related Sales
関連商品の販売です。本来の主たる商品やサービス以外にも、それに関連するような商品やサービスを自社の勧めに応じて、顧客が購買してくれる状況を指していると考えられます。

先述のように、この3RはCS型マーケティングの特徴として紹介されることが多いのですが、実際には、これらの三要素が皆、或る程度は定量的に把握可能な項目であることから、顧客満足を追求するオーダーテイカーの活動の評価基準として数値目標の形で決めることも一応可能であることになります。

具体的には、口コミは(来店客のケースでは誰が誰の紹介で来店したかを把握するのは容易ではありませんが)営業活動の中なら、ほぼ完璧に把握できることでしょう。顧客の囲い込み状況も、購買頻度や累積購買額を算出するのは全く難しくないでしょうし、競合商品を顧客が併用している場合などには、先方における社内シェアも把握できることが多いでしょう。関連商品販売は営業活動の中でイレギュラーな商材やサービスの提供を行なったり、他社商品の紹介や卸を行なった場合などにも、基本的に把握は可能な筈です。そのように考えると、営業活動の方が店舗での販売活動よりも、3Rがより精度の高い測定基準として活用できそうに思えます。

3Rの追求による 「オーダーゲッター」 機能の補完

前述の3Rの項目をよく見ると、オーダーテイカーの役割の範疇に収まっているのは、厳密には「顧客の囲い込み」だけと言うことができます。

● 「口コミ」は…
既存顧客と一般的には類似したニーズを持つ新規顧客が、自社の商品群や営業方針を理解した上で、事実上、向こうから現れることを意味しますし、

● 「関連商品販売」は…
既存顧客のニーズに従った、既存商品とは異なる新規商品・新規サービスの導入に繋がることが多いでしょう。これなら、売り手都合の新規商品を顧客のニーズの確認を待たずに導入するような過ちを犯す心配がありません。

つまり、既存顧客に対して既存商品を販売してゆく営業プロセスの中に、顧客満足の観点を取り入れ、改善・改革を行ないながら、3Rを追及すると、結果的に、もともと望んでも実現困難だった「オーダーゲッター」の機能が、自社の営業組織の中に芽生えることとなります。しかも、既存顧客や既存商品との関連がある状態ですので、リスクが低く、実現できることになります。また、前述のオーダーゲッターが抱えるコスト負担も、殆ど意識しないままに終わるでしょう。

勿論、このような作戦にも、短所は存在します。それは主に以下の四点と考えられます。

▲口コミによる紹介顧客は、既存顧客と類似した属性の顧客である可能性が高いので、
何かの環境要因などが悪化した際に、一気に同種の顧客を失う可能性が発生する。

▲口コミによる顧客開拓は、基本的に計画しにくく、その増加を計画的に推進することが困難。

▲口コミによる紹介顧客は、既存顧客と密な人間関係を維持しているため、マイナス情報は流布しやすく、
また、既存顧客との人間関係の悪化などにより、取引に負の影響が出ることがある。

▲ 関連商品販売は、顧客のニーズが既に確定している状態で導入できるので、リスクが低く、
売上も稼げる半面、利益性などの管理が必須で、売れるだけ薄利に忙殺されるような結果に
繋がらないようにする必要がある。

と言ったところかと思われます。しかし、「オーダーゲッター」機能をいきなり充実させようと取り組むのに比較すると、無理なく短期間で成果を確認できる手法として評価できるものと、弊社では考えています。

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