お客様が店内に滞留する小型サービス店舗でのホスピタリティ向上の実現

ストア・コンセプトの明確化をスタートに形のない「役務」を販売するサービス店舗での、スタッフ全員を取り込んだ、利益向上の取組みを事例として考えてみます。想定する店舗は零細パチンコ店。周囲には、新台(新機種)への設備投資やイベント実施をふんだんに行なう大型店が既に犇いています。お客様の一回の投資金額が平均すると減少の一途と言われる激戦の業界にあって、お客様が1円パチンコなどの低貸機種で長時間遊戯するようになってきました。

このような中で、差別化の基本は接客の強化と、業界紙誌などでも言われてかなり時間がたっています。多くの有力パチンコ店では、ミステリー・ショッパーズなどの導入やアンケート制の徹底、オペレーション指導部門の強化などの対策は当り前に行なわれています。ドル箱運びなどの作業も(自動化で減る傾向にはあるものの)まだまだ残り、オペレーション上、店員が行なうことが多い中で、所謂「接客」の向上は、身嗜みやマナー面の向上と、ひざ掛けの提供や円滑なカウンター作業などの、マニュアルに書かれたサービス作業の円滑化と言う面に集中しています。

そのような中で、サービスの間違いない提供から、一歩踏み込んで、ホスピタリティ向上を目指すことで零細パチンコ店の差別化を実現し、利益確保につなげる取組みのステップを紹介します。

Phase1 スタッフ全員の共通言語作り

店舗内のプロジェクトをアルバイト・スタッフも含めたメンバーで構成して戴き、店舗内の店長以外の中間管理職の方々は交代でメンバーとして参加して戴くことにしました。これらの方々に、具体的にこれから何をしていくのかを説明し、理解し、議論できるようになって戴かなくてはなりません。そこで、何を指してなんと呼ぶかと言うことを学んで戴くことにします。「共通言語作り」と呼ぶプロセスです。プロジェクトは隔週単位で行なわれることとなっていますが、敢えてその最初の三回を使って、共通言語のミニ講演を行ないました。具体的には、以下のテーマです。

○「お客様を知る努力とその手法」
超基本的な統計的な商圏把握の取組みや、その中のあり得るお客様のバラエティ、そして、差別化の発想から、ターゲットとするお客様像の絞込みを行なうことを教えます。

○「マーケティングとストア・コンセプト」
お客様のニーズを満たすことによって継続的な利益を生むと言う基本的なマーケティングの考え方を教えて、その上で、ストア・コンセプト構成のステップを説明します。

○「お客様満足実践とその計測」
まず、お客様満足とは「感動(≒良い驚き)の継続的提供」であることを教えます。その上で、何となく耳にしていて、何となく分かっている気になっていた、サービスとホスピタリティの違いを事例を交えて説明します。その実践した結果を3Rなどの具体的手法で計測、評価することを説明します。

※3Rによるお客様満足の測定の原理は、『営業組織の顧客満足向上』のページをご参照下さい。

ミニ講演は撮影して戴き、DVD化して店内で全員が交互に見ることにしました。また、サービスとホスピタリティの相違やお客様を知る努力のあり方などは、(スタッフ個人間のバックグラウンドが異なるため、)単なる説明では伝わりにくかったので、事前に見て戴いた映画の感想を議論するプロセスも入れました。秀逸な店舗運営の事例が多く含まれていればどのような映画でもよいのですが、今回のモデルケースでは上野樹里主演の『幸福のスイッチ』を用いました。

Phase2 ターゲット・カスタマーの設定

共通言語ができたところで、早速習ったばかりのターゲット・カスタマー設定を具体的に行なうこととしました。手法は共有化に優れていて、ニーズ連想がしやすいモデリングを使うこととし、ターゲット・カスタマーのモデルをプロジェクトのミーティング二回を費やして設定しました。

※モデリングの手法の概要は『差別化と顧客ニーズ』のページをご覧下さい。

モデル像の名前を店内で公募するなど、モデル像の設定を店内のスタッフが関心を持って共有できるように働きかけました。ターゲット・カスタマーのモデル像は「現在ご来店になっているお客様に共通するイメージから構成する」のでも、「今後、ご来店戴けると自店の強みを用いて最もニーズ充足が行ないやすいお客様像を構成する」のでも良いのですが、この場合は、イメージのし易さとスタッフの希望で前者となりました。

ターゲット・カスタマーのニーズを考えるに当たっては、簡単な動機付け理論を追加で参加者に学んで戴きました。動機付けは一般に社員向けに行なう前提で、人事管理の分野の一部として多くの場合、経営に登場します。しかし、人を或る行動に導くための要因分類として見ると、当然ですが、お客様にも応用できます。マズローの5段階説、アルダファのERG説、ハーズバーグの二要因説などの幾つかの動機付けの項目分類を知って戴くと、ターゲット・カスタマーは嬉しいことを抽象的に考えていくことが、議論に慣れていないスタッフでも、かなり可能になります。

Phase3 お客様カルテの設計と構築

もともと何名かのスタッフが、常連のお客様の景品やドリンクサービスの飲み物の好みなどを個別にメモしている素地があったので、そのメモをベースに、お客様カルテを構築することとなりました。項目は一旦設定して埋め始めてから修正するのが大変なので、お客様カルテにはどのような項目が入るべきなのかの検討にじっくり時間をかけます。

病院の実際のカルテの構造をプロジェクト・メンバーで思い起こし、デモグラフィック・データを中心とする「静的情報」と、来店情報や(ポイントカード会員のお客様に関しては)CRMシステムからの遊戯情報の概要などを反映する「動的情報」の二分野に分けることなどに気づいて戴きます。

また、店内の監視カメラ映像は 画像情報として静止画を作れますが、アングルが良くないことは勿論、スタッフが関心を持って覚えることができないので、敢えて似顔絵をお客様カルテに書き加えるルールを設定します。この結果、スタッフが皆、似顔絵を描く技術を身につけなくてはならなくなります。絵心の有無に関わらず、一定レベル以上の、特徴を捉えた似顔絵を描く技術を標準化し、モンタージュ写真のように似顔絵を描き、服装や持ち物などの特徴や口癖なども書き加えることとします。検定制度などまで設け、楽しんで、意欲を持ってスタッフが取り組めるように配慮します。

スタッフのいずれかが作ったメモが存在するお客様の分を優先的にカルテ化し、分かっている項目と似顔絵を皆で分担して記入する作業を先ず完了させることとします。

ホスピタリティの実践は、お客様の観察の習慣化を避けて通ることができません。ターゲット・カスタマー設定にモデリングの手法を用いるのも、敢えてローテクの似顔絵をカルテに採用するのも、スタッフが日常のオペレーションをこなすためにいるのではなく、お客様が嬉しくなることを把握し実践するためにいると言うことに、発想を転換する目的が背景に在ってのことです。

Phase4 お客様カルテの運用体制の定着

フェーズ3まででほぼ準備が整い、実際にお客様をよく観察し、そのニーズを捉え、スタッフ各自が行動することになります。それでも、「お客様を観察すれば、何をすれば良いか自ずと分かる」と放置する訳にも行きません。具体的にお客様カルテをどのようにオペレーションに組み入れるのかと言うことが当面の課題になります。

お客様カルテの運用に当たっては、幾つかの運用ルールが必要になります。具体的には以下の3つです。

○既存お客様カルテの空欄を徐々に埋めていく方法
○新規のお客様カルテを作成してお客様カルテの枚数を増やしていく方法
○お客様カルテの内容をスタッフ全員が記憶するようにする方法

一方でホスピタリティはお客様と接触している時間の中で発揮されるものですので、まずはお客様と接して短い会話ぐらいができるようにスタッフ全員がなってもらわねば困ります。実際にパチンコ店のホール内で作業をしていても、台に向かって遊戯しているお客様と話さないようにすれば、殆ど会話なく実現できるのが、一般的なパチンコ店の(カウンター業務を除く)ホール作業です。そこで、お客様に負担ない範囲でお客様カルテの空欄部分を皆で分担してお教え戴くことを会話目標に掲げてみました。

例えば、「お客様がよく外食に行くお店」が空欄の場合、「最近、私もクルマを買って、外食に行くことが増えたのですが、○○様は普段、どういう所にいらっしゃるのですか。何かお勧めして戴けるようなお店はございますか」のような、 “教えてくださいモード” の質問をお客様にタイミングを見て尋ねることとして、ロープレを反復することとしました。

ターゲット・カスタマーのニーズが広くは「承認」欲求であろうと言うことだったので、答えで教えて戴いたことを必ず検証して報告することとしたところ(、上の事例では、実際にお勧め戴いたお店に行き、「とてもいい店でした。ありがとうございます」とお礼を後日言うなど)、スタッフ全員で来店のお客様との会話が成立するようになりました。この延長で新規のカルテ作りも可能となりました。

一方で、これらの空欄を埋める作業や新規カルテを追加する作業、さらにカルテの内容を覚える作業を、スタッフが楽しみながらできるように、店舗内で接客のポイント制を立ち上げました。ミーティングでクイズ形式でお客様カルテの内容を尋ねて正解ならポイント付与。カルテの空欄を埋めてもポイント付与。一定以上空欄がない状態の新規カルテを追加してもポイント付与。ポイントは一定額貯まると表彰と商品券交換などの店内ルールを作ってみました。その結果、カルテ制度はスタッフ間に定着してゆきました。

Phase5 ターゲット・カスタマーのニーズの充足

お客様を知ること当り前になってきた店舗で、次に考えるべきことは、マーケティング・ミクスです。ターゲット・カスタマーの情報は設定したまま、或る面、放置されていたようになっているので、カルテの内容も踏まえて、デモグラフィック・データを中心に再度の見直しを簡単にやって戴きます。

ターゲット・カスタマーのモデル像とニーズが掘り込まれてきたところで、これまでのお客様カルテをベースとした活動が活きているので、「お客様は、実際に○○のようなことをして差し上げると、凄く喜んでくださる」のような意見がスタッフと議論しても、簡単に出てくるようになります。

その意見を、「接客(お声掛け・会話)」、「接客(店内サービス)」、「店内設備」、「一般景品品揃え」など、いくつかの分野に分けて分類することにします。この分類は、4Cに従って分類するのが基本と言うことになりますが、スタッフに提示する分野は、スタッフの意見を採用しやすい分野のみです。実際には、当然パチンコ店として大きな魅力となっている、「機種構成」、「機種配置」、「出玉設定」、「イベント企画」なども4Cの発想から当然想定されねばなりません。これらは、スタッフが参加するプロジェクトの外で、並行して店長を含めた管理者がターゲット・カスタマーを意識した形で、日々実現してゆくことになります。

プロジェクトの中では、上述のようなマーケティング・ミクスの案出をしますが、その際に、ターゲット・カスタマーに喜んでもらえて、且つ、スタッフ皆が間違いなく実践できる案(準備が少なくて済む、新たな出費が少ない、特殊な技術が必要ないなどの条件で比較してみた結果です)から、優先順位をつけます。そして同時に実行する方策を数個に絞込み、残りはその数個が終わってから、また数個単位で行なうこととします。

マーケティング・ミクスは項目のカテゴリー毎に欄を設けて記入するような形で「見える化」を行なうこととなりますが、欄がスカスカだと、どうしても色々とアイディアを書き込み、実行案を多々盛り込みがちになります。しかし、実際には、組織が同時に集中して徹底できる方策は少なく、また、少なく絞り込まねば、資金や時間など色々な経営資源が分散してしまい、効果が薄れます。お客様も目まぐるしく多様な方策が打ち出されるよりは、一個、また一個と徹底して実践される方策が現出する方が、 “飽きない面白さ” を感じてくださいます。

この数個単位の実施計画をガント・チャートのような簡単な表にまとめると、時系列変化してゆくマーケティング・ミクスの計画表ができあがります。よくスーパーマーケットなどで、年間販促計画を週間単位で作るように説いている専門書などがありますが、マーケティング・ミクスの観点からまとめた方が、ストア・コンセプトとの連動が意識されることでしょう。

マーケティング・ミクスが具体的な方策として実施されるようになると、体感値でのお客様満足がスタッフ間で共有される機会が増えてきますが、ここに至って、初めてお客様満足を3Rなどの分野の軸を用いて測定することとすれば、マーケティング・ミクスに含まれる具体的方策の成果が或る程度の精度で測定することが可能になります。この結果と、スタッフの手応えを上手く連動させると、店舗内「接客ポイント制」が仮になくても、十分、活動が維持できる風土が組織内に形成されることとなります。

Phase6 接客環境の整備と生産性の意識

フェーズ5までの内容はスタッフも多く参加する店内プロジェクトを中心に行なわれてきたものです。そのプロジェクトには、ホスピタリティ向上のプロセスを維持してもらうこととして、ここで、店長以下、幹部・管理者の別ミーティングを立ち上げて戴きます。この幹部会では接客環境の整備に取り組んで戴くこととします。

パチンコ店のみならず、お客様が店舗内に滞留するサービス店舗では、サービスの創出が人によって為される以上、人件費によって賄われる時間の多くを、接客も含めたサービス創出の作業に充てるべきです。しかしながら、通常のオペレーション維持が、ホール内でも(倉庫や事務室などの)バックヤード内でも、優先されている中で、先述の各種のホスピタリティ向上に向けた活動を積み重ねると、労働時間がどんどん増えてしまいます。ホスピタリティの実現は、お客様を観察し、覚え、お客様のニーズに自発的に対応することが前提です。労働集約型の「サービス作業」で固められた日常に付加をすると、当然の結果として労働総時間が増えがちになります。しかし、これをただ指を加えてみていると、折角の取組みなのに人件費の増加で恒常的な損失が発生します。

そこで、お客様に見えないところでの作業時間を徹底的に圧縮する取組みが必要となります。ホール内での作業マニュアルの変更や、何らかの設備投資の予算計上などにも波及する取組みになりますので、幹部会がそれを決めて実行する場とならざるを得ません。

具体的には、製造業の現場などで行なわれるQC活動などに代表されるような、「ムダとリ」の作業を徹底的に行なうことになります。サービス業では、身嗜みやマナー、言葉遣いなどが学習の対象となる研修は非常に多いものの、作業改善や「ムダとリ」の観点での研修を受けた人材はあまり存在しないのが一般的です。そこで、まず、幹部会の皆さんに「ムダとリ」の基本を学んでいただきます。特に、移動のムダや探し物のムダなどの改善事例や、3Sぐらいの知識はマストです。

この学習を集中的に行なって戴いた上で、自店にその知識を適用して戴きます。スタッフの動線を考えるだけでも、倉庫内の物品の配置を考えるだけでも改善点が膨大に浮かび上がるのが普通です。この際にQCの7つ道具やQCストーリーに代表される改善の道程のイメージは非常に役立ちます。

店舗内の作業時間の認識の際に、バックヤード作業を圧縮するイメージは誰しもすぐに持つのですが、ホール内でお客様に見える場所に居る時間の中にも、直接のお客様対応につながっていない時間が非常に多く含まれていることを見逃さないようにしなくてはなりません。接客時間の定義を「お客様カルテにある情報を用いるなどしてお客様満足につながるような行動が取れる時間」などと定義すると、接客時間が非常に限られていることに驚かされます。

この活動の成果は、時間測定をベースに行なわれることになりますが、これに人件費を掛けると接客時間のコスト・パフォーマンスが測定できることになります。バックヤード作業時間、ホール内非接客作業時間、接客時間などの分類がコストで記録することができるようになると、改善は進まざるを得なくなると思います。さらに、粗利から人件費を引いて人数で割り、人時生産性を産出することも当然可能です。3Rなどをベースとした何らかの指標を組合わせることにより、お客様満足と生産性のバランスを実現することが可能になってきます。

Phase7 お客様のロイヤルティ向上

プロジェクトを通してスタッフが皆、個々にお客様を観察し、お客様に喜んでいただける方策を集中して行なう体制が整い、そこへの時間投資も生産性改善の結果、より多くできるようになった段階を慎重に見極めて、スタッフに対して、或ることを解禁します。それは、お客様の「店舗大好きレベル」はお客様によって異なると言う当り前の事実を今まで無視して来たのに対して、今後、お客様の「店舗大好きレベル」に応じて、対応を変えてよいと言う風に指示すると言うことです。

この「店舗大好きレベル」は、所謂「ロイヤルティ」です。これを説明したり、書籍を読んでスタッフに学習して戴くのも一つの手なのですが、適当な基準を設けて、お客様を数グループに分類することにして、そのモノサシが「店舗大好きレベル」であると言うだけでも十分です。

営業活動において、「時間さえ取ってくれないお客」、「話は何とか聞いてくれるお客」、「話を聞いて、買ってくれるお客」、「買ってくれる上に、他の頼みごと(他のお客の紹介など)ができるお客」の四段階でお客様のロイヤルティを分類すると分かりやすいと営業専門のコンサルタントから伺ったことがあります。一般に普及している、ヘスケットなどによる分類を採用しても構いません。満足度と忠誠度でカテゴリー分類するものですが、具体的には…

○敵対者
○傭兵
○忠誠者
○伝播的忠誠者
○使徒
の順に満足度も忠誠度も上がっていくと言うものですが、忠誠度は高く購買を反復するのに、満足度は極端に低く、何らかの理由で購買を続けざるを得ないグループである…

○人質
も合わせて、合計6グループです。このうち、「伝播的忠誠者」と「使徒」を合わせて1グループにし、特殊なカテゴリーとして、「人質」を除外すると、前述の営業コンサルタントの分かり易い分類とほぼ重なります。このような分類基準を何らかの形で設定して店舗内のスタッフに提示することが必要となります。

このグループ分類ごとに基本的なアプローチパターンをスタッフに教えて、さらに自分たちで具体的にどのように行なうかをさらに揉んでもらうような時間を設けます。そして、各々のお客様が忠誠度も満足度も上位グループに少しずつでも近づくように心掛けるということを具体的に各々のスタッフができるように促します。これにより、多少ぎこちなくはありますが、コミュニケーション力が低いのが悩みとよく店舗経営者から評されているスタッフでも、組織全体でのホスピタリティ向上の戦力に十分なりえるようになります。

この時点で、ターゲット・カスタマー像をボリューム・ゾーンより上のグループぐらいに調整することも可能です。ターゲット・カスタマーをグループごとに設けるのは煩雑であり、この段階までくれば、コンセプトの実現上必要ではあっても、個々のスタッフが個々のお客様に対応する際には、マニュアル的な基準ではなく、ぎりぎり、お客様のニーズの方向性の理解の枠ぐらいの機能をターゲット・カスタマー像が果たしていると言うことと考えます。