■1. マーケティングにおける広告の位置付け

(1)プロモーショナル・ミクスの実際

マーケティングと聞くと、マッカーシーがまとめた「4P」を連想する人は多いものと思います。この4つの分野は、詰まる所、事前に決めたターゲット客の属性とニーズに合わせて、企業が企画決定すべきことのジャンル分けのことです。マッカーシーは、当時マーケティングの原理に対する需要を最も強く持っていた製造業を意識して4つのPを発案しましたが、4つのPに分類すること自体が大事なのではなく、10でも20でも、QでもRでも、必要とされる「事前に決めたターゲット客の属性とニーズに合わせて、企業が企画決定すべきこと」を列記することの重要性を説いています。そのすべてをまとめて「マーケティング・ミクス」と呼んでいます。つまり、4つのPは、マーケティング・ミクスの1パターンに過ぎません。

4つのPのうちのプロモーションは、さらに4つの分野に分かれています。「PR」、「広告」、「人的販売」、「セールス・プロモーション」です。これら4つを「プロモーショナル・ミクス」と呼ぶことがあります。端的に言うと、「PR」は「Public Relations」ですから、まだ買う気のない人々に良いイメージを与えるための情報発信的活動全般です。通常、何らかの取材を受けることなどを指して使われる用語ですが、本来の意味で考えると、中小零細企業の場合、近隣神社のお祭りに寄付をするのも、立派なPRです。ですので、この「PR」も本ページの定義に従うと、「買う気がまだ湧いていない人々への広告」と分類できるケースが含まれています。

続く「広告」はモロに本ページで説明する「広告」です。逆に次の「人的販売」は基本的に人の肉声を媒体として想定していることですから、全く広告と交わる所がありません。「セールス・プロモーション」は、ノベルティ作成とか懸賞企画など、他の3つに分類できない「その他」カテゴリーです。たとえばノベルティのボールペンに自社のコンセプトを刷り込んだりすれば、そのボールペンが肉声に拠らない情報発信をしている訳ですから、厳密に言うと、本ページで言う「広告」を含んだカテゴリーと言えます。

「その他」である「セールス・プロモーション」以外の3つのカテゴリーは、情報発信側から見て、相手がより特定できる関係性に徐々に移って行くプロセスを段階分けしているという風に見ることもできます。通常、「PR」段階では、相手の属性もニーズも大まかにしか分からない設定で考えられることが多いことでしょう。戦争の攻撃で言うなら、空爆のように、概ね敵がいそうな所を「狙うこと」なく広く攻撃するイメージです。(もちろん、この場合の攻撃の相手は、個人そのものではなく、個人の心に巣食う「買いたくない気持ち」です。)

「広告」の段階になると、敵の属性やニーズの想定が明確に出てきて、マーケティングで言うセグメントやターゲティングが為されます。大体、どんな人々に向けて、どういう訴えをするかが明確に意識される必要があるということです。リストを入手して個人名のDMなどを送ることもできるケースもありますが、それでも、ニーズ想定がきちんとしていなければ意味がないのは同じですし、「特定の個人・法人を対象」としているので、本ページの「広告」の範疇に含まれません。先ほどの戦争の攻撃の喩えで言うと、近距離まで迫って行なう建物単位の砲撃のようなものかもしれません。

「人的販売」は本ページの「広告」の範疇ではありませんが、「PR」、「広告」の段階からさらに進んで、特定の個人が眼前に現れている状態であると言えます。戦争の攻撃の喩えで言うと、白兵戦そのものです。このように考えると、3つのカテゴリーに、それを補強する形で(戦争の攻撃の喩えで言うと、各種の補助的武器装備と言った感じかと思いますが)「セールス・プロモーション」が加わって、総合的な情報発信を目的達成に向けて重ねるように、「プロモーショナル・ミクス」が構成されていることが分かります。

そして、「プロモーショナル・ミクス」も「マーケティング・ミクス」の一部である以上、4つのPに取り囲まれるように中心に位置するターゲット客の属性(=モデル像)とそのニーズは事前に明確にされていることが必要なのです。