■6. 資金不足と戦略欠如の中小零細企業の広告出稿

広告論について書かれたビジネス書を見ると、その多くの内容は大手企業でなくては当てはまらないような、つまり、中小零細企業経営の立場から見ると、非常に非実践的な内容が並んでいます。資金が限られている中小零細企業は、広告出稿の際もコスパを考えるのではなく、出稿の枠の費用の絶対額を見て考えることがほとんどです。大手企業に比べて圧倒的に資金力が不足しているので致し方ありません。しかし、実際に足りていないのは、多くの場合、資金よりも寧ろ戦略性の方です。

ここまで書いてきたような、マーケティング・ミクスや消費者の購買行動プロセスなども殆ど意識せずに広告を出稿しているケースが非常に目につきますし、その広告も大抵広告単体で効果を狙っているような、前後に何らの方策もない丸裸同然の出稿になっているケースが非常に目につきます。

資金不足でも、少なくとも戦略性は十分に高い優れた広告活用をするための幾つかのティップスを挙げてみます。

(1)広告は出稿してお終いにしない

ネット広告でもない限り、後述するようなレスポンスの効率(例えば、CPR(cost per response)などの指標で表現します)は、なかなか測りにくいものですが、アバウトでも良いので、自社なりの指標を設けて、その費用対効果を意識することがまず大事です。

レスポンス型の広告ではなくても、出した広告ページを販促ツールにして、その後も活用するなどの方法もあります。今では知っている出版社も減りましたが、「抜き刷り」という手法が昔はよく使われました。これは広告出向社が広告媒体となった雑誌の出版社に依頼して、広告の載っているページと広告掲載号の表1をセットで印刷して、販促ツールとするものです。掲載された媒体そのものを多めに買って手で持ち歩くのも大変ですし、例えば2年前の掲載号を持ち歩いて見せまわるのも明らかに悪印象です。しかし、抜き刷りのツールなら時間経過しても営業担当者の手持ちツールとして持ち歩けますし、封筒DMに入れて郵送することもできます。(広告とは言え)それなりの信憑性のある販促ツールです。このような活用方法も広告出稿に際してはぜひ検討すべきでしょう。

また、先述のように広告をマーケティング・フローの一部として用いるのも、或る意味定石でしょう。先にターゲットとなる集団(B2Bなら業界単位など)にPRをして置き、知名度が上がった所で、セミナー開催を企画して、(商品やサービスの直接的な販売目的の広告ではなく)セミナー集客の広告を打つのです。

よく「バック・エンド商品(/サービス)」を売るための「フロント・エンド商品(/サービス」の提供とか、「ホワイト・ペーパーの配布をきっかけに…」などの表現を耳にしますが、多くの場合、広告が全体プロセスの中に組み込まれていて、広告一発にいきなりの成約期待を負わせないような構造になっています。

「高いカネを払ったのだから、広告が売上につながってくれなくては…」は中小零細企業の社長がよく言う言葉ですが、高いカネを払ったのだからこそ、ぞんざいに打ちっぱなしにするのではなく、元が取れるように念入りに前後の流れを設計すべきなのです。

(2)代理店任せの丸投げ出稿は止める

広告代理店が全て悪玉ではありませんが、多くの場合、広告代理店はプロモーション・コンサルタントでもなければ、社会評論家でもありません。自社の商品・サービスの強みも分からなければ、ターゲットのお客の像もニーズも分析一つすることはありません。

広告代理店担当者はよく、媒体の中の「視認性の高い枠」、「写真やイラスト、図を用いた表現」、「大きな面積」、「高い出稿頻度」などを提案しますが、これらの方針と広告のコスパは必ずしも連動していません。彼らがこのような施策を提案してくるのは、それが彼らの収入を伸ばすからです。

最終的に広告代理店にレイアウトやデザインなどを任せることに問題はありませんが、少なくとも、マーケティング・ミクスの段階までは自社内で十分に検討して決定し、それに矛盾のない要素を固めて広告代理店に投げる覚悟が必要でしょう。

自分で十分に検討して出稿した広告ならレスポンスが思うほど伸びなくても、自ら仮説立てと検証のサイクルを回すことができます。それを怠ると、ただ無駄に資金を流出させることになりかねません。

逆に、あれこれと広告代理店に提案させては、難癖のような評論を重ねて、徒に広告代理店の受注コストを引上げる結果になるのも止めましょう。これも自社に確たる戦略があれば不要のプロセスですし、そのようにして積み重なってしまったコストを広告代理店側は必ず回収しようと、高い選択肢をより強く奨めてくるようになることでしょう。

(3)SNSをタダの広告だと思って飛びつかない

よく「ウチはカネがないからツイッターをやっている」という経営者の話を伺うことがあります。ツイッターを始め、ブログも含めて考える広義のSNSをタダの広告媒体と見做して安易に使い始めるのは非常に危険です。

SNSは根本的に広告媒体と異なります。土地にたとえるなら、SNSは公園や広場と言った公共のスペースであるのに対して、広告媒体はカネを払って自分が使う権利を得た賃貸物件です。公共のスペースでは他人に迷惑になるようなことはできませんし、皆が同じ発言権を持っていますので、議論や論争になることもあります。当然ですが、売らんがなの情報ばかり出していては、急激に相手にされなくなっていくことでしょうし、軽はずみな発信で会社の評価を大きく損なう可能性もあることが、大きなリスクです。

また、狙ったターゲットにきちんと届かせることが困難であることや、広告情報の滞留期間が読めないことも問題となり得ます。ツイッターなどのように、投稿に文字数の上限やレイアウト面などにおいて様々な制限がある場合には、伝えたい情報を意図通りに伝えることが非常に困難ですから、余計誤解を招いたり評価を下げたりするリスクが高まります。

また、一般にSNSを若手社員の提案などで始めて、そのままその社員に運用を任せっぱなしになるケースも散見します。その場合、アップ内容のチェックが疎かになることが多く、不利益な情報や不都合な情報が瞬時に拡散してしまうこともあり得ます。悪意がなくてもそのようなことが起こり得ます。

また、単純に面倒になったり、分かっている担当者が退職したりして、更新が儘ならなくなるのも非常にマイナスです。必ず、目的に沿った一定の頻度・量・質で継続できる体制を整えてからでなくては、SNSを始めるべきではありません。

「自社のウェブの運用をちゃんとやるのが面倒だから、SNSに切り替えようと思う」という経営者の話も聞いたことがありますが、更新頻度が閲覧者側から比較的意識されにくい自社ウェブでさえ満足に維持できないようなら、余計のことSNSは始められないと考えるべきでしょう。