■5. PESO分類と中小零細企業
(1)情報発信メディアの類型化 PESO分類
PESO、あるいはPESOモデルとは、生活者が接触するメディアを4つに分類したもので、「ペイド・メディア(Paid Media)」「アーンド・メディア(Earned Media)」「シェアド・メディア(Shared Media)」「オウンド・メディア(Owned Media)」で構成されています。それぞれの頭文字から「PESO(「ペソと読みます」)」とまとめられたものです。具体的な各々の分類は以下のようなものです。
★ペイド・メディア(Paid Media)
プロモーショナル・ミクスで言う「広告」の多くの形態がこれに該当します。広告出稿が有料で可能な掲載されるメディアのことです。
★アーンド・メディア(Earned Media)
プロモーショナル・ミクスで言う「PR」と同義と考えられます。いわゆる広報、パブリシティ活動、メディア・リレーション、インフルエンサー・リレーションなどと言う言葉で表現される活動の対象となるメディアです。
★シェアド・メディア(Shared Media)
アーンド・メディアはプロによる拡散を狙うものですが、B2Cのビジネスにおいて最終購買者となる一般消費者によるオフラインでの口コミやSNSでの拡散などが起きるメディアを総称したものです。一般消費者側によって完全にコントロールされているところが特徴です。元々のプロモーショナル・ミクスが作られた当時、明確に存在していないメディアですが、対象の人々が購買を行なうという前提があるなら、プロモーショナル・ミクスの分類なら、「人づての情報伝達」のことで、最終的な購買の場面に近いので、「人的販売」の一種と考えるのが妥当かもしれません。
★オウンド・メディア(Owned Media)
自社が所有し自社で完全にコントロールできるメディアのことで、自社ウェブサイトや自社発行のメルマガ、SNSの自社アカウントなどのメディアを指していますが、別にウェブ上のことに限る必要もないので、自社発行のフリーペーパー的なリーフレットなどもそうでしょう。購買への誘導の度合いによって、プロモーショナル・ミクスの「PR」と「広告」に(敢えて行なうなら)分類できるでしょう。
(2)古典的マーケティング論とPESO分類
上の項で、PESOモデルとプロモーショナル・ミクスの分類を関連付けてみました。古典的マーケティングが構成された頃にウェブの環境はなく、そのウェブも皆がPCでブラウザをいちいち立ち上げて見ていたような時代は遥か昔になり、個々人がスマホでウェブとも意識せず情報を処理する環境になりました。
プロモーショナル・ミクスの中の「広告」にはメディア分類を云々する話が多く、4大マスメディアからOOHに至るまで、各種の媒体が存在します。しかし、それらが「広告」である以上、その扱いや設計は殆ど同じ原理で行なうことができます。
しかし、「PR」の方には特に細かな分類や、その各々の情報発信の方法論について細かな検討はあまり為されていないままにネット時代が訪れました。「PR」は無償で「広告」は有償と言うおかしな定義をするのは論外ですが、「PR」の「まだ購買を意識していない人々への情報発信」の括りは、その情報発信方法を検討する手がかりとしてあまりに大きすぎてSNS環境が社会インフラ化した今日にはアバウト過ぎます。その際に、PESOモデルの「アーンド・メディア」「シェアド・メディア」は、有効な手掛かりになると考えます。
マーケティング論の中には、ヘスケットによるものなどのロイヤルティの軸も、「ザ・モデル」などに代表されるようなマーケティング・フロー(最近は「カスタマー・ジャーニー」などとも呼ばれています)の軸も、遷移し続ける顧客の状況をフェーズ化やモデル化するテクニックがあります。そのような議論の中で各々のフェーズや各々のモデルに対する情報発信の在り方を検討するときに、プロモーショナル・ミクスでは描写しきれない精緻な情報発信形態とその取扱いの使い分けを管理することにPESOモデルは役立つと思います。
ただ、PESOモデルに各々の分類に属する個別のメディアを用いる際にも、古典的マーケティング論のターゲット・カスタマー設定などは当然必要であるどころか、以前よりも精緻に、ネット上の言動パターンや個人の発信情報の価値観、そこから推察されるライフスタイルなどを意識する必要があります。
(3)中小零細企業のPESO分類
PESOモデルを見渡すとき、中小零細企業はコストがかからないことの単純な誘惑に引っかかって、「ペイド・メディア」を忌避しやすいものと考えられます。しかし、タダだからと言って、「アーンド・メディア」と「シェアド・メディア」は発信情報のコントロールが非常に効きにくく、中でも「シェアド・メディア」は頻繁なメンテンナンスが必要になりますから、人員の少ない中小零細企業において、事実上専任担当者を設けるぐらいの覚悟が必要になります。
同様に、「オウンド・メディア」は多くの場合、質と継続性を維持することが中小零細企業において困難であることが多いと思います。そのように考えると、やはり、有償ではあるものの、好きな時に好きな内容を狙った相手に確実に伝えることができる「ペイド・メディア」の有効性が光って見えるのです。
「ペイド・メディア」が有償だとは言っても、PPC広告や後述する「ミニマス媒体」のようなメディアの活用により、コストを適正に調整することや大きく削減することが可能になることでしょう。
場面に合ったコスパの高い広告出稿企画、そして、マーケティング・フロー全体を見据えた総合的な広告出稿企画を、中小零細企業の身の丈に合わせて実現することが重要なのです。