(4)4大マス広告は身の丈で出稿できる媒体を選択する

戦後から高度成長時代にかけて発達した全国区の広告媒体を4大マスメディアと呼ぶことがあります。テレビ・ラジオの電波媒体と新聞・雑誌の紙媒体です。全国区のこれらの媒体に広告を出せば、テレビのCM制作料も含めて億単位のお金がかかるなど、中小零細企業がやって意味のあるものではありません。

しかし、4大マスメディアには、「マス」とは言えないぐらいのマイナーなバージョンが存在します。テレビですと、地場のケーブルテレビなどがそれに当たりますし、その後、衛星テレビのチャネルも登場しました。ラジオは今でも自動車を運転中の人々や喫茶店や理美容店などの滞留型店舗では聞かれることが多いミニFMなどがありますし、その後、ウェブラジオなどの媒体もこの延長線上に登場しています。

新聞は地方紙や業界紙があり、雑誌にもマイナーな同人誌的なものやかなりマニアックな分野に特化した専門誌などが存在します。商店街や商業施設単位で出しているフリーペーパーなどもこの一種と考えるべきでしょう。業界紙の雑誌タイプである業界誌も非常に種類が豊富です。これらの多くは、セグメントされた対象を何らかの形で選ぶことにも向いており、その意味でマスメディアよりも優れているという見方もできます。

このような「ミニマス媒体」は中小零細企業にも十分手の届く価格帯であることが多いので、相応の頻度とリーチ(到達範囲)で出稿できます。

(5)社内にウェブ・スキルの教育体制を確立する

先述したように、営業担当者であれ、販促セミナーであれ、紙媒体の広告であれ、紙媒体の販促物であれ、DMであれ、SNSであれ、検索エンジンであれ、多種多様な接点から発生するすべてのリード(≒見込客)は、一旦自社ウェブに集約する必要があります。電話やファクスの問い合わせでさえ、人間の対応で完結させず、自社ウェブに流した方が間違いないぐらいです。そうすれば、広告出稿の効果も営業活動の効果も展示会の出展効果も、自社ウェブのアクセス解析で細かく把握することができるようになります。

そのような把握を、リード以前の(敢えて言うなら、神田昌典が命名した「そのうち客」以前のアクセスだけは確認できても、まだ正体が全く分からない)段階の「アンノウン」と呼ばれる対象者にまで拡大し、コンバージョンまでの相手の行動を細かく把握し、さらに自動的に適切なアクションを相手の行動に応じて起こすシステムがあります。MA(マーケティング・オートメーション)です。

自社ウェブへのアクセスの状況は時々刻々と変化していきますから、本来、特に機動性が主要な強みになる中小零細企業において、自社内で大まかにでも分析し続けることが大事です。しかし、経営者自身もウェブどころかICT系の基礎知識を持ち合わせていず、ウェブ系の業者に高い費用を払って分析を辛うじて行なっているケースが非常に目立ちます。しかし、多くの外部業者は、単にウェブのアクセス解析のプロであって、ビジネスモデル理解のプロでもありませんし、ましてこちらのターゲット顧客がどのようなニーズを抱えるどのような人々なのか知る由もないのです。

そのように考えると、社内にどうしても自社ウェブを管理できる人間が必要です。しかし、そのスキルを持った人間を外から雇うと、そのスキルの標準化を社内で行なうことが困難になることがあります。結局その雇った人材に任せっきりになることが多いからです。

そうではなく、まるで、封筒詰めのスキルとか報告書作成のスキルぐらいの“有り触れたスキル”として自社ウェブ管理のスキルを認識して、できれば社員全員、せめて複数の社員が自社のウェブ管理ができる状態を創り上げるべきです。詰まる所、社内で教育体制を敷くということです。

教育内容は…

□第一段階:ウェブ・ページの修正ができる。(テキスト・画像など素材に拠らない)
□第二段階:ウェブ・ページをゼロから作れる。
□第三段階:ウェブサイトの構成ができる。
□第四段階:アクセス解析のデータが理解できる。
□第五段階:アクセス解析から状況が読み取れる。
□第六段階:アクセス解析から対策を案出できる。

と言った感じです。

今後はこれに中小零細でも安価のMAを活用することになるでしょうから、MA活用のスキルや、顧客DBの管理のスキルが基礎レベルだけでも付け加わらなければなりません。

時々刻々と変化するウェブへのアクセス状況に対応して利益を生み出す機会を逃さないためには、複数の社員が“当たり前に”対応できる社内体制を育成によって創り上げることも大切です。しかし、それ以上に、自社のビジネスを理解して、仮説と検証のサイクルを自分の脳内や社内全般で回し続けることが非常に重要です。自社ウェブのアクセス解析の結果から、自分達の想定が成果を生むものか否かもすぐに数字で客観的に測れるので、その都度すぐに改善をしてより高い成果を求めることができます。それはつまり、ウェブを基軸にした広告出稿を中小零細企業でも精度高く実施し続けられるということです。

ですから、この育成体制ができる会社とできない会社では、大きく収益に違いが出る可能性が大きいということなのです。

このような動きは、検証に当たっての各種の作業の多くが自動化されるMAを採用すれば、より高速になっていくでしょう。

(6)ローテク「オウンド・メディア」を創造する

PESOモデルの説明の箇所で、中小零細企業の場合、まずは「ペイド・メディア」をきちんと使いこなすべきだと書きました。ただ、広告に多様性を付け、広告では伝えきれない付加価値の高い情報を発信したりするには、「オウンド・メディア」の活用も検討すべきです。

「オウンド・メディア」は、自社で創り上げるメディアのことで、ブログやフェイスブック・ページ、メルマガなどがよく事例に挙げられます。発信頻度を挙げれば、質が犠牲になりがちです。また、定期的に出すことができなくなってきても、出して得られるロイヤルティの量以上に、多くのロイヤルティを毀損する可能性があります。それぐらい、「オウンド・メディア」は実行するのに覚悟と体制が一般的には必要です。

しかし、もっとローテクで古典的な「オウンド・メディア」もありますから、検討の余地はあります。たとえば、ポケット・ティッシュなどの情報をそれなりの量書き込めるノベルティ・グッズは、かなり貧弱ですが「オウンド・メディア」に間違いありません。ポケット・ティッシュではなく、箱ティッシュならかなり載せられる情報量がますでしょう。二つ折りなどになった名刺を活用している会社もあります。二面しかない名刺が四面になるのですから、かなり色々な情報が盛り込めます。おまけに、ターゲット(受け取り手)の種類や用途によって違う内容のものを用意するのも簡単です。

一歩進めて、A4一枚モノのニューズ・レターに挑戦しても良いでしょう。店舗に貼ったり、営業担当者が持参することにして、それを概ね決めた周期やタイミングで新しいものに差し替えていくのです。それをさらに進めたものがメルマガなどの配信メディアと言うことになるでしょう。当然ですが、前項で述べたように、配信した情報もどんどんウェブに溜め込んで、アーカイブとして公開するような形にしていけばよいでしょう。

少々手間やコストがかかりますが、社史や経営方針についての小冊子などを作ることも、「オウンド・メディア」の手法として検討すべきです。このタイプのものは、一定頻度で出し続ける必要がないので、気が楽です。質も専門業者さんにアウトソースするなどすれば、コストと引き換えにはなるものの、まあまあ安心できます。